第2話
"コボルト"を追い森の奥へとノキアは進んで行く。
「はぁ...はぁ...、くそっ!見失った挙句だいぶ奥の方まで来てしまったな。」
ノキアは足を止め周囲を見渡す。
「ここはどの辺りだ?」
だが、見渡したところで周りにあるのは木々の似たような景色のみ。
「完全に迷ったな...まあ、仕方ない。とりあえず進んでみるか。」
ノキアは方向も分からぬまま森を進んで行った。
しばらく歩いていると...木々で深く覆われた場所へと出た。
日が差し込まず、影が多い場所。
ノキアが何気なく視線を落としてみると...
「ん?...おお!これだ!"クコの夜草"じゃないか!!」
暗い日影に生える"クコの夜草"。
かなりの数がそこには生えていた。
ノキアは"クコの夜草"を採取し始める。
・・・・・
・・・
・
「これくらいあれば大丈夫か。あとは町へと戻るだけだな。」
クライ ー
「・・・何だ?」
一瞬、何かが聞こえた気がした。
ノキアは集中し耳を立てる。
・・・・
・・・
・・
・
「・・・気のせいか。」
再び歩き出そうとした瞬間。
タスケテ ー
また聞こえた謎の言葉。
声ではない。頭に残る意思ような何か...
ノキアはソレがはっきりと伝わる方を目指し歩き出す。
「何かは分からないが...様子だけでも見ておくか。」
暫く歩いていると
ノキアは慎重に近づき穴の様子を窺った。
穴の中には・・・誰もいない?
何かの骨と奇妙な陣、それと異様な
「何だ?ここは...これは繭か?」
ノキアは穴の中に入り周囲を調べる。
タスケテ ー
また頭に伝わる謎の意思。
クライ ー
タスケテ ー
クライ ー
クライ ー
タスケテ ー
「分かった分かったから少し静かにしてくれ!」
ノキアは繭に向かって言葉を呟く。
すると、その意思はピタリと止んだ。
言葉を理解している?それとも単なる偶然か?
「"助けて"か...何かは分からないが、おそらくは原因はこの繭だろうな。」
ノキアは短刀を持ち繭を少しずつ開いていく。
「これは・・・女?」
開いた繭から少女が出てきた。
ノキアは少女を繭から出しその場に寝かせる。
繭の中に女が居た...さっきの頭に響く声のような意思はこの女が原因だろう。
コイツが助けを求めていた...そもそもここにある繭は一体なんだ?
とりあえず、コイツが目覚めたら一度 町に...
ノキアが考えを整理していると寝かせていた少女が目を覚ます。
「ん...うぅ...?」
「お、目が覚めたみたいだな。大丈夫か。」
ノキアは目を覚ました少女に尋ねる。
「は...ぃ...」
返事は返すもののまだ見る限り大丈夫では無さそうだ。
だが、ここに長居するのは拙い気がする。
ノキアは手を差し出し少女に尋ねた。
「目覚めたばかりで悪いが、まずはここを出たい。歩くことはできるか?」
少女はノキアの手を取り小さく頷いた。
少女を連れ、外へ出ようと穴の出口へと向かい歩き出す。
『おや?コボルトからの報告を受けていたのですが、まさかこんな所に居るとは...』
ゾクリとした寒気が走る。
異様な気配を漂わせ穴の中へと入る者がいた。
『初めまして。私は
ユルド...そう名乗る者の姿は人ではなく、不気味な角と歪な羽を有し赤黒い肌をした魔族であった。
自身の素性を明かした直後ノキアの視界からユルドが消える。
『そして…サヨナラです。』
気付くとユルドは一瞬の間にノキアの目の前に迫っていた。
なっ!?距離は十分にあったはず!?
一瞬の出来事に硬直したノキアにユルドは重い一撃を食らわせる。
ガハッ ー
ドゴォンという轟音と共にノキアは壁に激突した。
目の前に現れた
ガタガタと震える少女。
ユルドは少女を見て声を荒げ喜んだ。
『ああ!ついに目覚めた。身体は形成され、自我も芽生えつつある。これは
少女に手を伸ばした瞬間...
ユルドは背後の気配に気付き咄嗟に伸ばした手を後ろへと払った。
ガキンッ -
と鈍い音が響く。
『・・・おかしいですね。さっきの攻撃を受けて動き回れるとは...死んでてもおかしくない威力だと思ったのですが...』
ユルドが少女に注目した瞬間、ノキアは気配を絶ち背後にまわり短刀を突き立てようとしていた。
「くっ...ダメか!」
ノキアは攻撃を防がれ距離を取る。
短刀を構えユルドの様子を
再びノキアの視界からユルドが消える。
それと同時に後ろから感じる気配...
「同じ手は食わない!」
ノキアは咄嗟に言葉を叫ぶ。
=
ガキンッ -
不意のユルドの攻撃。
ノキアはそれを防ぐ。
『ほう...興味深い。私の攻撃を防ぐとは。何ですか、それは?』
「さて、何だろうな?」
ノキアが纏った外套は役割を終えると霧散して消えていった。
『なるほど。どうやらそれは攻撃を防ぐのに少しの間しか維持できないようですね。発動の条件は言葉に出さないといけない...違いますか?』
「・・・・・。」
ユルドの説明にノキアは沈黙したまま警戒を続けた。
『図星ですか。なら、簡単です。何らかの方法で声を出せなくする。もしくはその守りの効果が切れるまで攻撃を続ければいいだけです。』
ユルドがパチンと指を鳴らすと床が光出し陣がいくつも現れる。
『物量で押し切りましょう。』
陣の中からコボルト・レッドウルフ・ガーゴイルが次々と出てくる。
『この森、及び周辺に住まう魔物を呼び寄せました。たしかに貴方の防御手段は大したものです。私の攻撃を受けてもビクともしない...ですが、貴方は攻撃の手段をあまり持ち合わせてはいないのではありませんか?その証拠に貴方の攻撃方法は短刀による不意打ちのみ。ならば、不意打ちに気をつけながら複数からの攻撃で押し切ってしまえば何の問題もありません。』
狭い穴の中で次々と召喚される魔物の数々にノキアは苦戦を強いられる。
レッドウルフの攻撃を
ガーゴイルの魔法を仕留めた魔物を盾にして防ぎながら凌ぐ。
『無駄ですよ。何度倒したところであなたもこの森に居る全ての魔物を相手にするのは無理でしょう?』
ユルドの言う通り倒したところで埒があかない。
「くそっ!一度外に...」
ノキアは魔物達に背を向け穴の出口へと向かった。
ゾクッ ー
後ろから来るユルドの攻撃。
その鋭い爪で貫くような突きが放たれる。
ノキアは咄嗟に言葉を叫ぶ。
=
ドゴッ ー
ユルドの突きの余波で風が吹き荒れ穴の壁が削られる。
『外しましたか。』
振り返り、カウンターでユルドの首を狙いノキアは短刀を振るう。
サッ ー
短刀はユルドの首には届かず空を切った。
ノキアはその勢いを殺さず回転し再び出口へ向かった。
外へと飛び出すノキア。
「ここはマズイな...もっと遠くへ。」
ノキアは穴を離れ遠くへと移動する。
それを追いユルドと他の魔物たちが穴の外へと溢れ出す。
『さて、もう終わりですね。大人しくしていれば苦しませずに死ねますよ?』
ノキアを取り囲む魔物達を従えてユルドは語る。
「見逃してはくれないのか?」
ノキアが何気なく言った言葉にユルドは首を振り答える。
『この状況...聞かずとも分かり切っているでしょう?』
「なら、最後まで足掻くとするか。」
ノキアは覚悟を決め構えた短刀をユルドに向けた。
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