世界樹と災いの箱

オカモチエンマ

第1話

西の辺境の町=ルッツ=


町の中の冒険者ギルドに一人の青年は立ち寄った。


"翼の生えた人間...天人そらびとと名乗る者の噂を知らないか?"


ギルド内にある酒場...そこにいる冒険者達から青年は情報を集める。


「羽の生えた人?それはもう人じゃないな。」


「翼の生えた異形の者?魔物か?ハーピィなら東の方の山に出ると聞くが...」


「翼ぁ?何だ?飛べるのか?俺も...ヒック...飛んで行きたいね...ハハハハ。」


一通り冒険者に聞いて回っては見たがこれと言って大した情報は得られない。


「やはり収穫なしか。まあ、なんとなく予想はしていたが...」

そう言って青年は地図を広げる。


西方の都市ベルサからさらに西へと辿って辺境の町ルッツまで来たが情報は無しと...暫く留まって金を稼いだら次は南の方へと行ってみるか。」

青年は次の目的地を決めて地図をしまい、酒場を後にした。


「何か、良い依頼は無いだろうか?」

ギルドの受付へと移動し壁に貼られている依頼を確認する。


ランクA:レッドウルフの縄張りの"魔退まびき"


ランクB:クコの夜草の納品


ランクF:3番通りのドブ攫い


ランクがバラバラで無造作に壁に貼られている依頼の数々。

青年はその中から一枚の依頼を取り受付へと持って行く。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?」


「依頼を請けたい。手続きを頼む。」

そう言うと青年は一枚の依頼書をギルド職員に手渡した。


「かしこまりました。それでは冒険者ランクを確認いたします。ギルドから渡されたギルドタグを提示してください。」

青年は首から掛けたタグを外し職員に見せる。


「たしかに確認しました。ギルドランクCのノキア様ですね。

今回の依頼はランクB:"クコの夜草の納品"で間違いありませんか?」


ギルドの規定上、一段階上のランクの依頼も請ける事ができる。

だが、その分危険も大きくなるためギルド職員は毎回冒険者たちに確認をすることが多い。


「ああ、それで合ってる。」

ノキアはギルド職員に頷いた。


「かしこまりました。では、手続きをしてまいります。少々お待ちください。」

そう言ってギルド職員は受付の奥へと消えていった。


暫くすると、ギルド職員が戻ってくる。


「受付は完了致しました。依頼達成の報告期限は一週間。それまでにクコの夜草を5束納品してください。」

職員の説明を聞いたノキアはギルドを出る。


「クコの夜草...たしか、魔瘴汚染の特効薬の素だったか?先ずは情報を集めてみるか。」

そう言うとノキアは町を歩き回り 薬を扱う店を探した。


町を歩き回った結果、この辺境の町ルッツは四つの通りに区分されていることが分かった。

・町の人達が暮らす1・2番通り。

・町の商業を担う3番通り。

・冒険者たちの宿場の4番通り。


ノキアはクコの夜草の情報を調べる為、3番通りで薬屋を探す。


「ここか。」


3番通りの裏路地に佇むボロボロの店。

ノキアはその店に足を踏み入れる。

店の中に入ると薬草の独特な匂いが漂ってくる。


「誰も居ないのか?」

ノキアは辺りを見回し店の奥へと進んだ。


「いらっしゃい。」


ビクッ!?


不意に聞こえる声に驚きノキアは声のする方を向く。

そこにはいかにも薬屋のような怪しい老婆が立っていた。


「お客さんかぇ?」

老婆はノキアに尋ねる。


「...ああ、3番通りの薬屋に聞いてな。ここに来たんだ。」


「ああ、あの小娘の経営してる店か。それで?ここには何をしにきた?薬を買うだけならあの小娘の店で十分なはずだが?」

老婆は皮肉を混ぜながらノキアに話しかける。


「欲しいのは薬じゃない...いや、薬になるのか一応...。婆さん、クコの夜草って置いてあるか?もしくは生えている場所を知らねえか?」

ノキアは老婆にクコの夜草の事を話し始めた。


「そうか、ギルドの依頼で"クコの夜草"を...残念じゃがここに"クコの夜草"は置いてはおらぬぞ?そもそも、あの依頼を出したのは儂じゃしな。じゃが、生えてる場所なら知っておる。」


「本当か!?」


老婆はクコの夜草についてノキアに説明する。


老婆の説明によるとクコの夜草は辺境の町ルッツを出て西に8時間程歩いた森の奥に生えているらしい。


場所は分かった。

あとは、準備を整えて採取をしに行くだけだ。


「ありがとな、婆さん。おかげで助かった。依頼通り"クコの夜草"を納品してやるから待ってろ。」

ノキアは老婆に礼を言うと店を出ていく。


「さて、場所は分かったが今から行くとなると2~3日は掛かるか。食料や道具を揃えて準備しないとな。」

そう言ってノキアは3番通りの店を回り必要なものを用意していく。


陽が昇り切った頃、ノキアは辺境の町ルッツを出て西へと向かった。

道中は獣らしきものとちらほら遭遇したがソレを軽くあしらい進んで行く。


ノキアが森に着く頃には陽も沈み、辺りは暗くなっていた。

「今日はここまでだな。森には明日入るとするか。」


森の外で夜を明かす。


暗い視界の中で薪を集め、道具を使って火を焚き、辺境の町ルッツで買った食料で腹を満たした。


夜に眠る時すら警戒を怠ってはいけない。

少しでも違和感を感じた時に反応できるようにしておく。

パチパチと焚火が音を鳴らす中ノキアは眠りに就いた。




次の日の朝、日が昇ると共に森へと入る。


森は木で陽の光が遮られ奥になるほどに暗くなっていく。


「"クコの夜草"はこの奥か。」

ノキアは森の奥へと進んで行く。


ガサッ ー


草葉が擦れる音がした。

ノキアは警戒し様子を窺う。

すると木々の陰から1体の魔物が姿を現した。


"コボルト"と呼ばれる半獣人の魔物だ。

獣の身体能力を持ち、武器を扱う知能を有する。

1体の脅威性はそれほど大きくないが、徒党を組み一人を確実に狙う厄介な性質をもつ。


"コボルト"はこちらに気付いていない様子。

それを察したノキアは一気に駆けて距離を詰める。


「先手必勝!!」


ノキアの声に"コボルト"も気が付くが、時は既に遅く背後にまわられ持っていた短刀で仕留められた。


「"コボルト"か...」


ノキアは仕留めた"コボルト"をみて考える。


本来"コボルト"は集団を形成して冒険者を襲う。

だが、ここにいた"コボルト"は1体だけ...おそらく斥候だろう。

どこかに"コボルト"の集団がいるはずだ。


「このまま無視して進んでも良いが、町へ戻る時に邪魔されても面倒だ。今のうちに潰しておくか。」


そう言うとノキアは"コボルト"が現れた方向を辿ることにした。


森を歩き進んで行くと周りからいくつかの気配を感じる。


「気のせい...じゃないな。」


ノキアが警戒し足を止めた瞬間"コボルト"が襲い掛かってきた。


四方からの奇襲。


だが、ノキアは攻撃をひらりと躱し持っていた短刀を手に構える。


「1...2...全部で4体か。」


コボルトの1体がノキアに真っ直ぐ向かってくる。

それを避け首元に短刀を突き刺した。

コボルトの勢いを利用し首元を切り裂く。

だが、1体目の陰に隠れていた2体目のコボルトがノキアに鋭い爪を振り下ろす。

回避などは間に合わず"コボルト"の爪がノキアの身体に触れる直前...ノキアが何かを呟いた。


闇纒あんてん


ノキアに集まる黒い霧状の"闇"。

それは外套のように形を成し、ノキア自身に纏わりついた。


ガキンッ ー


コボルトの爪は"闇"に弾かれ体勢が崩れる。


その隙を逃さずノキアはコボルトの急所に短刀を突き刺した。


「残るは2体、さっさと終わらせ...」

ノキアがコボルトを見た瞬間、雄たけびを上げ残る2体は逃げていく。


「逃げんな!」


ノキアは2体の"コボルト"を追いかけた。


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