第4話

夜が明け、朝が来る。


「おい、起きろ。おい!」

ノキアは眠っているナナミに声を掛ける。


「おい、おい...いい加減目を覚ませ。」


「う...ん...」


何度も呼びかけるノキアの声に気付きナナミはようやく目を覚ます。


「あ、おふぁようございまふ、ノキアしゃん...ファ~...」

虚ろな意識のまま ナナミはノキアに挨拶をした。


「ほら、さっさと目を覚ませ。今日は町まで戻るんだからな。そんな状態だと置いて行くぞ?」

ノキアの一言にナナミは意識をハッとさせた。


「お、今度は完全に起きたな?とりあえず、ほら...朝飯だ。」


ノキアはナナミに"パン"を渡した。


「あ、ありがとうございます。では、いただきますね。」

そう言うとナナミは"パン"に噛り付いた。


ガキン ー


「ハガッ!?」


石のように硬い"パン"にナナミは驚きノキアに尋ねる。


「ノキアさん!!これ、本当に食べ物ですか!?食べられますか!?」

迫るナナミの質問にノキアは淡々と答える。


「あぁ?当たり前だろ。何言ってんだお前は?」

ノキアはナナミが話を理解出来ない様子に首を傾げる。


「私が間違っているんですか?私がわるいんですか!?」

ナナミにとって、その"パン"は石のように硬く食べる事が困難な食べ物であった。


「しょうがねえな。俺が食べ方を教えてやるよ。よく見ておけ。」

「お願いします!!」

説明を聞く為、ナナミは姿勢を正しノキアを見る。


「まず、パンを手に持ち一口の大きさに千切る。」


ブチブチブチッ ー


ノキアは持っていたパンを軽々と一口大に千切った。


「ハイ!ストップ!!そこからできません。」


「何故できない?」


「"パン"が硬すぎるんです!!石ですか?これは!!石を千切るのは私には無理です!!」


ノキアはナナミが話を理解出来ていない様子に再び首を傾げる。


「もうそれは良いですから!!」


ナナミがノキアにツッコミを入れた。


ノキアは自分が千切った"パン"をナナミに渡す。

「ほら、これでいいだろ。それを口に含んで唾液で柔らかくして食べんだよ。」


「あ、ありがとうございます…」

ナナミはノキアに礼を言うと千切ったパンを食べた。


「・・・・。」

パンを食べたナナミは複雑な表情を浮かべる。


「どうした?」


「いえ、味が...あと硬いです。」

素直に感想を述べるナナミ。


「食い終わったら出発するぞ。まだ大丈夫だが、あまりモタモタしてると町に着くのが夜になっちまう。」


二人は食事を終えて辺境の町ルッツへと出発した。


行きで8時間掛かった道を戻り、10時間後...二人は辺境の町ルッツの目前まで来ていた。


「ノキアさん、もう歩けないのですが…」

町の手前でナナミはヘタリと座り込む。


それを見るノキアはナナミに向かい言った。


「正直、お前がこんなに貧弱とは思ってなかった。」


「酷い!!」


「俺はてっきりお前も冒険者だと思っていた。お前も依頼を請けてあの森に向かい、魔族に捕まり記憶を失ったと。

だから、ギルドで調べれば何か分かると思っていたが、どうやら俺の算段は今根底から覆った。調べても何も分からんかもしれん。」


「うぅ…(泣)」


ノキアはナナミの落ち込む様子をクスりと笑い、手を差し出した。


「冗談だ。ほら、行くぞ。分からない事が分かるだけでも一歩前進だろ?」


「分からないと決めつけないで下さい!!」


二人は話しをしながら辺境の町ルッツへと戻るのであった。


辺境の町ルッツに着いたナナミはその賑わいに驚く。


「何ですか!?ここは!!こんなに沢山の人を初めて見ました!!」


あちらこちらを見回してノキアに質問する。


「ノキアさん!あれは何ですか?あっちは?こちらも…」


初めて見るような景色に興奮しているナナミだが...


「あれこれ質問するのは後だ。まずはギルドに行くぞ。」

そう言ってノキアはナナミを連れてギルドへ向かう。



ー冒険者ギルドー



ノキアはギルドの受付で職員に話しかける。


「依頼の達成報告にきた。報酬をくれ。」


「かしこまりました。では、ギルドタグの提示をお願いします。」


ノキアはタグを職員に見せる。


「少々お待ち下さい。」

そう言ってギルド職員は受付の奥へと入って行く。


暫くして…


「お待たせしました。ノキア様ですね?依頼はランクB:"クコの夜草の納品"でお間違いありませんか?」

職員がノキアに確認をし、ノキアは間違いないと頷いた。


「では、依頼の品の確認をさせて頂きます。こちらに提出して下さい。」

ノキアは言われるままに納品する品を提出する。


「確かに。"クコの夜草"を5束確認致しました。それでは報酬をお受取り下さい。お疲れ様でした。」

職員は報酬をノキアに渡し一礼する。


ノキアは受け取った報酬を確認し言った。

「さて、報酬は貰った。これで依頼の方は解決だ。」


続けてノキアはギルドの職員に尋ねる。


「ちょっと良いか?依頼とは別で聞きたいことがあってな...」


「はい、何でしょう?」

職員は再びノキアの話に耳を向ける。


辺境の町ルッツから西にある森。あの森もしくはその周辺で依頼を請けて帰還していない者はいるか?」


ノキアが職員に尋ねると職員は難しい表情でノキアに説明する。


「申し訳ありません。ギルドの規定上、他の冒険者の個人情報は教えられない決まりになっております。」


「そうか...すまなかったな。」


ノキアは申し訳なさそうな表情の職員に謝る。


「いえ・・・差支えなければ、何か事情がおありですか?」


「ああ、実はな・・・」


ノキアは西の森でのナナミとの一件を話した。


「なるほど。それでギルドでの情報を求めた訳ですね。」


「ああ。」


職員の言葉にノキアは頷く。


「ただ、私の一存では決めかねますので、上の者に事情を話してみます。可能であればこちらにお連れ致しますのであちらで少々お待ちください。」


ギルド職員はそう言って一度ノキア達の前から離れた。


「じゃあ、言われた通り待ってようぜ。何か進展があるかもしれんしな。」

ノキアはナナミと共に言われた場所で暫く待った。


「お前に関する情報が見つかればいいが、あまり期待はするなよ?」


「...はい。」


すると、先ほどの職員が人を連れて戻ってくる。


「こちらの二人です。」


「ほう?この方たちが...申し遅れました。辺境の町ルッツの冒険者ギルドで支部長をやっている"マルクス"と言う者です。よろしくお願いします。ここじゃと周りの目がある。こちらへ。」


マルクスと名乗る老人は挨拶を済ませると応接室へと二人を案内する。


「さて、ここなら周りの目も気にならない。少し話をしよう。」


応接室へと入った瞬間、マルクスの雰囲気が変わった。


ピリピリとした威圧的な空気が二人に伝わる。


「ノキアさん...」

変わった雰囲気を察してナナミはノキアの陰に隠れた。


「爺さん...何の真似だ?」

ノキアはナナミを庇いながらマルクスに尋ねた。


「おお、失礼。面白そうな事と遭遇するとつい相手の力を確かめてしまうんだ。すまない。」

マルクスはそう答えると威圧的な雰囲気を引っ込める。


「さて、うちの職員から概ね話は聞いた。知りたいのはそちらの少女の冒険者登録の情報だったかな?」


「ああ、そうだ。」


ノキアはマルクスに頷いた。


「コイツは自分の事が分からないようでな。色々と調べているんだが、コイツが冒険者ならギルドで何か情報が得られないかと来たわけよ。」


「そうかそうか。だが、先ほど職員から言われなかったか?ギルドの規定で個人の情報は答えられないと。」


マルクスはノキア達に再度説明をした。


「ああ、聞いたよ。一度は諦めようとしたんだが、ギルドの職員が事情を聞いてくれてな。結果、爺さんが来てくれたわけよ。ここに来たという事は何とかしてくれるんだろう?」


「今回は特別じゃ。そう何度もあるものではないと覚えておけ。1時間...いや、2時間後にまたここに戻ってこい。それまでに調べておいてやる。」


マルクスはそう言うと情報を調べる為一度部屋を抜ける。


「俺たちも一度、出るぞ。換金の他にもやる事はたくさんあるんだからな。」


「は、はい。」


ノキア達もギルドをあとに町へと繰り出した。

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