第5話

ノキアと七美はギルドをあとに町へと繰り出す。


「よし、ナナミ。2時間後に結果を聞きにギルドへ戻るが、その前にやるべきことをやるぞ。」


「は、はい。ノキアさん。」


ノキアはナナミを連れて3番通りへと向かう。


3番通りー商業エリア


ノキアとナナミは人で賑わう3番通りを歩き、店を探していた。


「あの...ノキアさん。まずやる事とは何でしょう?」


ナナミがノキアに尋ねると...


「そうだな...あの店で良いだろう。」


ノキアは目に付いた店に入り席に座る。

そこはピークが過ぎ客足が落ち着いた食堂であった。


「まず、やる事...それは"腹ごしらえ"だ。」


ノキアは店員を呼び注文を始める。


「注文を頼む。腸詰のセット、リーフサラダ。それからオークボアのシチューを2人分。」


暫く待つと注文した料理が来た。


テーブルいっぱいに料理が並ぶ。

それを見てナナミは「こんなに…食べるんですか?」と呟いた。


ナナミにとって料理の基準は朝に食べた"パン"だけであった。

それ故全ての料理が"パン"と同じ基準であると彼女は認識していた。


「冒険者は身体が資本だからな。いざって時に力が出なきゃ話にならねえ。とにかく食え!」


ナナミへの説明を手短に済ませノキアはテーブルの料理を食べ始める。


ナナミもノキアにならいテーブルの料理に手をつける。


〜!?(声にならない叫び)

パッとナナミの表情がはなやぐ。


「何これ…凄く美味しい。こんなの初めて食べました。」


香辛料が利いた腸詰は味がしっかりとしているし、サラダはサッパリと腸詰の味を中和してくれる。

シチューに至っては肉を摘んだだけで崩れる程柔らかく濃厚な味であった。


美味しい。どれもこれも全部。

ナナミは夢中になり全ての料理を食べ切った。

満足そうな表情を浮かべる。


それを見たノキアは、「さて、"腹ごしらえ"は済んだ。次に行くぞ!」ナナミを連れ店を出る。


ノキアに連れられナナミは3番通りの裏路地へと向かった。


着いた所は今にも潰れそうなボロボロの店。

「ノキアさん、此処は?」

ナナミはノキアが連れてきたボロボロの店について尋ねる。


「薬屋だ。ここに用があってな、少し寄っていくんだ。」

ノキアは薬屋に入り老婆の店主を探す。


「おーい、婆さん。居るか〜。」

コツコツと奥から誰かがやって来る。


「ヒッ!?」

驚いたナナミはノキアの後に退避する。


「なんだい、お前さんかい。」

老婆はノキアを見て淡々とした口ぶりで話す。


「おう、また来たぞ。婆さんのお陰で依頼も完了した。後でギルドから"クコの夜草"も届くだろうよ。」


「まさかアンタそれを伝えるためだけに来たのかい?」

老婆はノキアに尋ねる。


すると…


「いや、実はな納品分とは別に"クコの夜草"があるんだが買い取ってくれないか?」


そう言ってノキアは老婆に"クコの夜草"を2束取り出し見せる。


「アンタ、これっぽっちで買取りを頼みに来たのかい?変な交渉はやめて持ってる分全部出しな!」


!?


この婆さん、何者だよ!?


ノキアは残りの"クコの夜草"を全て出した。


「全部で9束だね。納品分と合わせて14束。まあまあだね。大銀貨1枚と銀貨8枚ってところか。」


!?

老婆の提示した金額に驚く。


「"クコの夜草"が1束銀貨2枚もするってことか!?」


※銀貨1枚:約10,000円


「まあね、今は特に"クコの夜草"が不足してるから妥当な金額さね。」


ノキアは老婆に"クコの夜草"を全て売り店を出た。


「つぎに行くぞ…と言いたいとこだが、そろそろ時間だ。一度ギルドに行くぞ。」


ノキアはナナミに伝えるとギルドへと向かった。


冒険者ギルドに着くとマルクスが来ており二人を待っていた。


「来たか。10分遅刻じゃぞ。」


マルクスはノキアに伝える。


「わるいな爺さん。色々と回ってたら少し遅れた。」


「まあいい。お主の言う情報を調べてきたぞ。」


マルクスはノキアに伝え、説明を続ける。


「結論から言うとナナミさん、君の冒険者としての情報はギルドには無かった。調べてきたがあの森、及び周辺で依頼を請けた者は全員無事に戻って来ておる。"ナナミ"と言う名前が偽名であっても特徴が一致する者もおらん。つまり、君は冒険者では無いと言う事だ。」


予想はしていた。


だが...もしかしたらと言う可能性を捨てきれずにいた。


「・・・やっぱりそうでしたか。私も冒険者じゃないと薄々は思ってました。」

ナナミは渇いた笑顔で笑う。


「ノキアさん、少し外の空気を吸ってきてもいいですか?」


「・・・おう、行ってこい。」


ナナミはノキアに一礼するとギルドの外へと出ていく。


「すまんのぅ。あの娘には酷じゃったか?」


「いや、アイツも薄々は気付いていたと思う。気にするな。」

ノキアは謝るマルクスを気遣うように話をした。


「それと、お主に聞きたいことがある。」


「何だ?」


「西の森で倒した魔族の事じゃ。魔族を倒すだけでも珍しい事じゃが、そやつが最期に言っていた言葉が気になってな...今回 ぬしらに会ったのは、その話について話したかったからじゃ。」


マルクスはノキアに尋ねる。


ぬしの倒したユルドとやらが魔皇と言う言葉を口にしていたのは事実か?」


ノキアはマルクスの問いに頷いた。


「ああ、魔皇様にナナミと世界樹の枝を...とか言っていたな。何か知っているのか?」


魔皇まおう・・・言葉の通り魔族をまとめ上げる皇の存在じゃな。魔族は個々の派閥を重視しており、まとまる事など無いと思っておったが、ぬしが遭遇したユルドとやらの口ぶりではもう魔皇は存在しておる可能性があるな。冒険者ギルド内で情報を共有しておかねばならんか。」


マルクスはノキアの話を聞いた後、考え事をしながら独り言を呟いた。


「魔皇とは、爺さん達が気に掛ける程の存在なのか?」

ノキアがマルクスに聞いてみると...


「当たり前じゃ!!今言ったじゃろう。魔族は個々の派閥を重視すると...それをまとめ上げる圧倒的な力を持っておる存在...それが魔皇じゃ。主も魔族と闘ったならその強さが分かるじゃろう?」


確かに、あの魔族ユルドは厄介だった。あれをまとめ上げる存在...考えたくないな。


「爺さん、もう一つの質問だ。"世界樹の枝"の方は何か知っているか?これもあの魔族が口にしていた言葉なんだが...」


「おお、そちらも知ってはおる...が、何を示すかは分かっておらんのぅ。」


ノキアはマルクスに尋ねる。


「どういうことだ?」


「ワシが知るのは世界樹についてじゃ。枝については何も分からん。」

マルクスはそう言った後、ノキアに説明を続ける。


「世界樹というのはな、古い文献に出てきた話じゃ。遥か昔に世界をめぐって2つの存在が対立していてのぅ。世界を安寧に導こうとする天の勢力:天人てんじんと世界をあばこうとする地の勢力:悪人あくじん。二つの勢力が争った。やがて天の勢力が勝利を収めたが、争いの傷が深く天の勢力は勝ち取った世界を去った。その世界に生えていた1本の樹が世界樹と呼ばれている。まあ、言い伝え程度の眉唾の話じゃがな。」


ノキアはマルクスの話に眉をひそめる。


天人てんじん天人そらびと…似てるのは偶然か?


「爺さん、その天人について教えてくれ。些細な事でもいい。姿は?歳は?目撃情報はあるか?」


ノキアはマルクスに問い詰める。


「落ち着け。言うたじゃろ。古い文献の眉唾ものの言い伝え話じゃと、存在などしとりゃせんよ。」


・・・・・・

・・・


ノキアは一度深く息を吐くと冷静になりマルクスに謝った。


「すまないな、爺さん。」


「気にせんで良い。お主、それほど天人について知りたいのには何か理由があるのか?」


ノキアはマルクスの問いに沈黙する。


「まあ、人には人の事情があるか...それほど天人について知りたいのなら南方の都市サウクラップに行ってみよ。あそこは遺跡から昔の歴史を調べる者が多い。昔の天人についての話も知っておるかもしれん。」


マルクスの話を聞き目的地が決まる。


「爺さん、ありがとうな。」


「それと、もう一つ。あの娘の事じゃ。お主、あの娘を連れて南方の都市サウクラップに向かうのか?」


ノキアはマルクスの問いに答える。


「ああ、そのつもりでいたが...」


「主から聞いた魔皇の件もある。狙われているかもしれんあの娘を連れて旅をするのは危険では無いか?」


たしかにマルクスの言うことは正しい。


もし旅の中で魔族と対立しようものなら守り切れるかどうか分からない。


「もし、あの娘がこの町に留まるならギルドで娘の面倒をみよう。辺境とはいえここなら冒険者も数多くいる上にワシらの目も届く。まあ、どうするかを決めるのは娘じゃが伝えておいてもらえるかのぅ?」


「わかった。爺さん、ありがとうな。」


ノキアはマルクスに礼を言うとナナミの元へと向かう。

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