第22話

"サイクロプスオーガ"を倒した。

だが、まだ油断はできない。

この地下三階層には少なくともあと三体確認されている魔物が居る。


"ワイバーン純正種オリジン"

"アシッドヒドラ"

"キンググラトニー"


今の"サイクロプスオーガ"との戦闘でダンジョン内の魔物に場所を知られたであろう。


雄叫びが近づいてくるのが分かる。


「おい、シズ。急いで隠れるぞ!あんなのと一々いちいちやり合っていたらキリがねえ。」

二人は身を隠せそうな岩陰に隠れる。


そして、数分も経たないうちに新しい魔物が現れた。


それは6枚の翼を羽ばたかせたダンジョンの空に降臨する。


"ワイバーン純正種オリジン"


文字通りワイバーンの原種であり、通常相手にされるワイバーンより遥かに強い。


魔外域で知られる銀煌竜シルバードレイクと並ぶ竜種の一つであり討伐にはA級冒険者が10人は必要だと言われている。


ワイバーン純正種オリジンは空を旋回しながら異常な部分を探している。


「連戦は勘弁して欲しいな。」


「そうね。」


呟くノキアに同意するようにシズは答えた。


サイクロプスオーガの死骸は消えている。ここで何が起きたかは直接見てなければ魔物にも分からないはずだ。


やがて、ワイバーン純正種オリジンはその場を去っていく。

それを確認すると二人は次の階層に降りる道を探し始めた。


広い空間ではあるが、次の階層に続く階段がある場所は固定されているため見つけやすい。


「入ってきた階段がアッチだから、この方向に進めば下に降りる階段があるはずよ。」


シズの言う通りノキアは階段のある方向へと向かった。


だが...

ノキアが何かに気付きシズに隠れるように話す。


「隠れろ!!」


「何?どうしたの?」


岩陰に隠れた二人は慎重に顔を出し覗く。


そこには、灰狼アッシュウルフと言う魔物に囲まれていた。


一体の方の魔物はスライムの形をしていたが、すぐに形を変えて人型の形になった。


「ノキア、アレって...」


「ああ、"キンググラトニー"だ。」


"キンググラトニー"・・・一見すると、小さな黒いスライムだが、周りの命ある者を喰い尽くす魔物。


更に取り込んだ力を再現することができる為、長年生きてきた個体に関する脅威度は計り知れない。


「拙いぞ、あの形は人型だ。おそらく先遣隊の手足を取り込んでる。これ以上取り込まれる前にやるぞ。」


灰狼アッシュウルフを人型のキンググラトニーが一掃したタイミングでノキアとシズが攻撃を仕掛ける。


岩陰から飛び出し二手に分かれた。


ノキアは短刀を、シズは二刃をキンググラトニーの左右から突き刺す。


・・・・・・・

・・・・・

・・・


だが...

グニャグニャと水のように液体化する身体に攻撃は通らない。


「くっ、いったん退くぞ!」


二人は攻撃を中断し、逃げるようにその場を去った。


「どうするの?アレはもう相当強くなっているよ?」

シズの話を聞きどうするかを考える。


「倒す方法があるにはある...が、乗るか?」


「何?さっさと教えなさい。」

ノキアの話にシズは頷いた。


「作戦は・・・」


ノキアはシズに説明をした後、シズと別れワイバーン純正種オリジンの元に向かった。

残ったシズは再びキンググラトニーの方向に転換し向かって行く。


割符クリエイトを割り武器を作る。

四湶しせん:水を操る槍

シズは作った四湶しせんをキンググラトニーに投げ突き刺した。


"水成り"


シズの四湶しせんから際限なく水が湧き出す。

キンググラトニーの身体が膨張して行く。


そこへ、ワイバーン純正種オリジンを誘導したノキアが戻ってくる。


「シズ!隠れんぞ!!」


その言葉を聞き二人はワイバーン純正種オリジンとキンググラトニーの視界から姿を消した。


残った2体はそれぞれお互いの姿を見る。


互いに本能のまま争う2体。


空中にいるワイバーン純正種オリジンと地上で成長するキンググラトニー。


決着は長引くかに思えたが、ワイバーン純正種オリジンがキンググラトニーに近づいた瞬間に決着がつく。


キンググラトニーに触れた途端ワイバーン純正種オリジンの翼が黒く変色し朽ちていく。


やがて、ワイバーン純正種オリジンは地に落ちキンググラトニーに捕食された。


「今よ!!」


シズの掛け声にノキアは割符を割りキンググラトニーに投げる。


すると、巨大だった身体は見る見るうちに小さくなり黒い渦の中に消えて行った。


「上手く行ったみたいね。あれは何なの?」

シズはノキアと合流し話をする。


「あれはマーリンに貰った研究中の失敗作だ。空間同士を繋げる...何て言ったか?とにかくソレの失敗作で発動すると全部吸い込まれていくんだとさ。」


「まあ、これで先へは進めそうね。」


二人は三階層を調べ次の階層へと至った。


ー地下4階層ー


3階層から見つけた階段を降り4階層へと入る。


そこは、大荒れた天候が広がる階層だった。


「っ、こんな天候で敵が出るなんて冗談じゃねえ!さっさと下に降りる階段を探すぞ。」


シズは頷きノキアについていく。


豪雨で地面は泥水で溢れ、木々は風で反り返る。


厚い雲で光は届かず、夜のような暗さを保っていた。


こんな中で敵と対峙して無事な訳がないだろう。


ざわつくような感覚が止まない。


何が起きても対応できるように警戒を高め進む。



ピシャン ー



ザァーザァーと降る雨音とは別にノキアは微かな水が跳ねる音を聞いた。


「走れ!!」


シズに向かいノキアは叫ぶ。


反射的にシズは走りノキアに尋ねた。


「何!?何があったの!?」


走りながらシズが耳を澄ませてみる。


バシャバシャと水を走る足音の他に水の中を移動する何かの音を察知した。


迫りくる水の音はこちらが逃げるよりも早く二人に近づく。


ノキアとシズは観念し後ろを振り返りその正体を確かめた。

水が爆ぜ、中から白く巨大な蛇が現れる。


「俺たちを追ってきたのはコイツだったのか。」


それは、二人の知らない魔物であった。


蛇とノキアたち、両者は互いに相手の出方を窺う。


先に動くノキア。

蛇に向けバッグから取り出したナイフを投げる。

蛇はそれをひらりと躱しノキアに襲い掛かる。


「当たるかよ!」


ノキアは襲い掛かる蛇の下に潜り込み巨体を蹴り上げた。


「今だ!!」


掛け声と共にシズは二刃で蛇の胴を切り裂いた。


蛇から滴る血が二人に向かい降り注ぐ。

血まみれになる二人。


だが、蛇の血は雨ですぐに流された。


何とも呆気ない3階層と比べるとあまりにも楽すぎる。


「他にも魔物が居るかもしれないが、こんな天候じゃ調べることも難しいな。とりあえずは先に進もう。」


二人は4階層を調べるのを後回しに先へと進む。


やがて、5階層への階段を見つけ5階層へと到達する。



ー地下5階層ー



そこは月が3つある夜の空間。生き物の気配は辺りに無く、野原のような景色が一面に広がっていた。


「しかし、妙な空間だ。俺の感覚だと今は昼間なんだが、こうも夜の景色を見ると感覚が狂っちまう。とりあえず、休憩しようぜ。」


3階層、4階層と戦闘が続き疲労やダメージも溜まっていた。


...。」

会話を返すシズの様子の違和感にノキアは気付く。


「おい、シズ。お前なんか変じゃねえか?」

そう言ってノキアはシズを見る。


顔が真っ青になりノキアを見てガクガクと震えていた。


「な!?どうした!?」


「来ないで!...下さい。」

明らかに様子がおかしい。


それはまるでシズがノキアに怯えているような様子だった。


何かの冗談か?


俺が師匠シズに怯える事はあっても逆など絶対に無いはずだ。


何があった?


攻撃を受けた?


いや、一緒に行動していた上に攻撃を受けたところは見ていない。


だが、このままの状態で先に進むのは無理だ。


一度戻って報告するか。


ノキアはシズを連れ戻ることを決めた。

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