第9.5話

辺境の町ルッツを出てノキア達は西方の都市ベルサへと向かい旅をする。


ナナミにとって初めての旅だ。


不安と期待が入り混じる妙な感覚を携えノキア達の後をついていく。


ルッツを出た直後は草花が不恰好に咲くような平原であったが、4時間ほど歩くと雑草がちらほらと生えるだけのもの寂しい場所へと変わった。


瓦礫のような石が辺りに散らばり、その隙間から植物の芽が生え始めている。


「止まれ…」


ノキアから静止するように言われナナミはピタリと止まった。


なにがあったのだろうか?


ノキアと共にいるシズがこちらに寄ってくる。


「ごめんね、ナナミちゃん。ちょっと大人しくしてて。目を瞑ってても良いからね?」


シズの言葉の意味を理解出来ないままナナミはじっとしていた。


目の前のノキアに死角から潜んでいた獣が複数襲い掛かる。


ノキアは持っていた短刀で獣の身体を切り裂いて行った。


真っ赤な血が宙を舞う。


それはナナミにとって初めて見る命を奪う光景。


それを見てナナミはシズの言葉の意味を理解した。


ああ...そうか。


だから、さっきシズさんは…


ノキアを襲った獣たちはその場に倒れ動かなくなる。


獣の身体は血溜まりが出来、その血は地面へと染み込み黒くなった。


「大丈夫か?」

ノキアから声が掛かる。


「えっ!...はい。」

不意の声に慌てて返事を返した。


何かを察するシズ。


「ナナミちゃんには、ちょっと刺激が強すぎたかな?」


「・・・・・・。」


「でもね、仕方ないの。襲われたららないとこっちがられちゃうから...旅をしてれば嫌でも分かるようになる。今は理解しなくてもいいから、頭の隅にでも覚えておいて。」


「・・・はい。」


シズの言葉を頭の中で繰り返す。


らなければられる...


もし、あそこで手を下していなければ...


脳裏に血まみれになり獣に喰われている光景が浮かんだ。


そうか...これが...


ナナミはそこで"善"も"悪"もない"生きる為"の淘汰を知った。


だが、理解と納得は別物だ。


ナナミは割り切れない気持ちを抱えたまま旅をするのであった。

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