第12話

銀煌竜シルバードレイクです。」


職員はノキア達に伝える。


ノキアとシズは苦い顔をして互いを見た。


銀煌竜シルバードレイク...」


「...銀煌竜シルバードレイク


傍で見ていたナナミは二人に尋ねる。


「危険なドラゴンなんですか?」


「ああ、そうだな...厄介なやつだよ。気性が荒く一度暴れ出すと手が付けられん。魔外域の中で厄介な竜種のひとつだ。」

ノキアはナナミに説明する。


「しかも銀煌竜シルバードレイクが暴れているのが厄介なのよね。」


「どういうことですか?」


銀煌竜シルバードレイク人界域じんかいいきに産卵に来るの。ここは魔外域まがいいきと違って外敵も少ないし、銀煌竜シルバードレイクからすれば私たちの存在も大したこと無いと思われるくらい小さな存在なの。だから、普通は相手にされる事なんか無いんだけどね、今回暴れているという事は人間側が何かをしちゃった訳。」


「今回は恐らく、その領主の息子が銀煌竜シルバードレイクか卵に手を出したんだな。こうなった以上は討伐されるまで収まることは無いだろう。」

ノキアは小さく溜め息を吐いた。


「で、どうするの?ノキア...ドラゴン討伐、本当に参加するの?」

シズはノキアに尋ねる。


「いや、今回は止めておこう。割に合わない事が多すぎる。S級も来てくれるんだろう?なら、さっさと準備をして俺らは西方の都市ベルサに向かおうぜ。」


「決まりね。」


三人は準備を済ませ西方の都市ベルサへ向かうことを決める。


三人がギルドを去ろうとすると...


ドンッ ー


ギルドの扉が勢いよく開く。


「ギーグ!ギーグは居ないのか?」


一人の男が護衛のような兵士をゾロゾロ連れてギルドへと入ってくる。


「おい、そこの職員。ギーグを呼んで来い。カリオスが来たと言ってな。」

先ほどまで話していた職員に向かいカリオスは命じる。


「は、はい。」


職員はすぐに奥へと消え、やがて一人の男を連れて戻ってくる。


「やれやれ...また何かあったのですか?カリオス様。」


「ギーグ、まだS級の冒険者は来てないのか?」


どうやら、カリオスとか言う男と話しているこの男がギーグと言うらしい。


「はぁ...まだ来てませんよ。以前にも申した通り、王都からS級を派遣するにはそれなりの手間が掛かるのです。」


「何を悠長なことを言っている!!こうしてる間にも私の命が危険に晒されているのだぞ!!第一、私を助けるのに金を取るのも納得できない!私を助けることはとても栄誉な事なのに!!」


このカリオスと言う男は何を言っているんだ。


三人は同じことを考えていたが口には出さず、端の方で大人しくしていた。


「とにかく、カリオス様。このような所までお越しせずとも何か進展があれば屋敷の方に遣いを差し上げますので、お引き取りを。」


ギーグに言われ、カリオスは不満を漏らしながらギルドを去った。


「ハァ...これだからボンクラは...ん?」


ギーグは端で大人しく様子を見ていたノキア達に気付く。


「初めて見る顔だな。俺はギーグ。このギルドのマスターをやっている。よろしくな!お前らは外から来た冒険者か?」


ギーグはノキア達に話し掛ける。


「ああ、西方の都市ベルサに向かう途中でな、この街レツィオに寄ったんだ。」


「そうか。なら、さっきのやり取りを見ていただろ?カリオスに目を付けられん内に準備をして向かった方が良いぞ。」

ノキア達に忠告をするギーグ。


「何があったんだ?以前はまだ街は賑わっていたと覚えがあるんだが...」


「私もそうよ。前に立ち寄った時とまるで雰囲気が違うわ。」


ノキアとシズは以前来た時と様子が違う事を伝える。


「ああ、お前さんたちはこの街に来たことがあるのか。確かにその頃はまだ平和な時期だったな。」

ギーグはノキア達に説明する。


「ちょうど、ひと月前だったか...街の領主が体調を崩し始めたんだ。最初は気にするほどでも無かったらしいが急に悪化し始めてな、ついには起きているのもままならない程になったんだ。そこで領主様は王都の治癒院に治療に向かい、息子が領地の管理を任されたわけよ。」


「なるほど。それで好き放題やった結果があれか。」


ノキアの一言にギーグは溜め息を吐き頷いた。


「まあ、仕事が欲しいなら紹介はしてやる。だが、儲けが大きいのは期待するな。ドラゴン討伐を差し置いてそんな仕事を紹介してるのか!と怒鳴られちまうからな。」

ギーグの溜め息は尽きない。


どうやらギーグの話を聞くとS級の冒険者の派遣もまだまだ時間が掛かるらしい。


悩みの種は尽きないと彼は言っていた。


ギーグの紹介で宿を取る。


三人は集まり、今後の方針について話し合いをした。


「これからどうする?」


ノキアは二人に意見を尋ねる。


「とりあえず、ギルドで話した通り準備を進めて西方の都市ベルサへ向かうで良いんじゃない?」

「私もそれで良いと思います。」


二人は西方の都市ベルサに向かうと言う意見を述べる。


方針は決まった。三人が考えていたことは一致していた。


だが...


「つぎは直面してる問題についてだ。」


「「問題?」」

シズとナナミは声を揃えてきく。


「金が無い。」

ノキアは二人に現状が切迫してることを伝えた。


「はっ?」

シズはもう一度ノキアの言葉を聞き返した。


「だから、金が無いんだ。正確に言うと無くなりかけてる。お前のせいでな!!」


「ちょっ!?何で、私のせいなのよ!!」

ノキアの言葉にシズは異議を唱える。


「お前...心当たりがないのか?」

ノキアは信じられない物を見る様な目でシズを見た。

"おやっさん、もう一杯おかわり。お金はノキアこいつにツケておいて。" 

※7話参照


"こんなに美味しい物はここでしか買えないわよ。すいませ~ん、追加注文お願いね!!あ、支払いはよろしく!!"

※10話参照


「何?私が悪いって言うの?ノキアも食べていたでしょ!!あ、ナナミちゃんは別よ。何が言いたいかと言うと、全部ノキアが悪い。」

シズはノキアに対し文句を述べる。


コイツ自分に非が無いと正当化しやがった...

領主の息子といい勝負になりそうなほどの暴論を言ってやがる。


ため息を吐くノキア。


「まあ、何が言いたいかと言うとまずは金を稼がねばならんと言う事だ。だが、そこで出てくる問題がある。」


「ああ、あのカリオスとか言う領主代理ね。」

シズの言葉にノキアは頷く。

「ギーグは仕事を巧く紹介してくれるらしいが、ちまちまと稼いでたらいずれ目を付けられちまう。だから、必要最低限の金額だけ稼いで街を出るぞ。いいな。」

ノキアの話に二人は頷いた。


「それでお金はいくら残ってて、いくら必要なんですか?」


ナナミがノキアに尋ねる。


ノキアは財布の袋を取り出し金を数えた。


・・・・・

・・・


「今ある金がこれだ。銀貨4枚と大銅貨8枚...宿が1泊3人で大銅貨7枚。飯に掛かる金は節約して大銅貨5枚ってとこだろう。つまり1日に銀貨1枚と大銅貨2枚が減っていく。対して3人の食糧と水を1週間分で銀貨3枚ってところだな...」


「あれ?計算上はギリギリ足りるはずでは?」

ナナミはノキアに言った。


「ああ、そうだな。確かにここを出て西方の都市ベルサへ向かう分には問題ない。だが、西方の都市ベルサとなると違ってくる。」


「どういうことですか?」

ナナミは首を傾げてノキアに尋ねる。


「ナナミ、この街"レツィオ"に来て最初に何をしていたか覚えてるか?」


「確か...えっと、お金を・・・」


ノキアはそうと頷きナナミに話す。


この街"レツィオ"西方の都市ベルサのような大きな街では入国するのに金が掛かんだよ。銀貨3枚。」


「銀貨3枚!?」


ナナミはノキアの話を聞き驚く。


「銀貨3枚の三人分で9枚も掛かるってことですか!?」

シズがナナミの話に割り込む。


「いいえ、ナナミちゃん。私とノキアは別よ。貴女だけが掛かるの。」


「どうしてですか?」


「冒険者はギルドで管理しているためお金を免除してもらえるの。まあ、D級以上の条件付きだけどね。私とノキアはD級以上だから問題ないってわけ♪」


ナナミは理解したように "なるほど" と頷く。


「まあ、とにかく明日からギーグに頼んで依頼を紹介してもらおう。今日のところは解散だな。」


三人はそれぞれの部屋に戻り眠りに就いた。

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