第8話
一方、三名は、配布できる備品を渡すためと、別の部屋に誘導されて来ていた。
「ここで鎧とかもらえるんですかね〜ちょっとくらい格好良くしたいですね。
なんかさっき笑われてたみたいなんで…」
話しているのは農具を持った青年だ。
「いや鎧とか重いだろ。ずっと歩き回るんだぞ?重さだけでへばる。
ああいうたぐいの格好で長距離行くのは、馬がいないと厳しい。
疲れたときに、魔獣どころか、普通の獣が向かってきても自分の重みで避けられないぞ。」
黒髪の青年が冷静に助言する。
「いや魔獣とか魔王軍とかカンベン!そんなのいるところは避けて行きますよって!」
「まあそうだな。がっつり戦う装備とか皆持ってないし。」
「馬も備品としてかりられないんですかねえ、歩くの楽じゃないですか。」鍋を脇に抱えた若者が言う。
「馬に乗って薬草とか普通採らないぞ。薬草採取は歩きだ。視点を低くしてないと草木の見分けがつきにくいものは結構あるんだ。
それに馬だと草を見つけて止まれと合図を出しても、間に合わず踏み潰すかもしれんだろう?貴重な薬草だったら困るだろう。
だいたい皆は馬に乗れるのか?」
「畑を耕す馬がいたりしましたけど、朝から晩まで人間と一緒に働かせていたので、乗ったりはしませんでしたね。
余分な重労働させることになるし、はやく潰れても困るし。」
「鎧つけて馬に乗るとかでも、距離行くと重さで馬が疲れて潰れてしまうかもわからんな。」
一同は話しながら、なにか装備品を配布してもらえるのかと期待して待っていたが、
担当者から、薬草採取には装備品は渡す必要はないから配らないと言われガックリしてしまった。
「それに装備品はおふれにもあったけど持参が基本だからな。配布なんか期待するなって。
あ、そうそう、地図は渡しておかないとな。次の納品場所がわからないからな。」
「次の納品場所とは?」
「町や村なんかの窓口に、そっちから薬草を集めたものを、納品するんだろ?
確かそういう話だったと思うから、次に行きやすそうな場所を、地図に赤丸で目印つけといてやるよ。
隊は一つは地図を持っていくからな。余り物だが一つ残ってて良かった。そら、受け取れ。
ここは明日戦地へ向けて出発するから無人になるんだよ。だからここに薬草とか納品しに来ても困るぞ。
地図に赤丸で書いといた村に持ってってくれよな。」
地図だと言って渡されたのは、一度濡れて乾いたものらしく、文字や細かい図柄が溶けてにじんでいる場所があり、よくわからないものだった。
実は使えないため廃棄予定のものだった。
担当者がこれを渡したのは、本隊が行く戦地の場所は濡れてにじんでいるところだったが、薬草採取の向かう場所ではないし、ここから薬草を納品する村へ行くだけに使うなら、にじんでいても用は足りると思ったからである。
また地図はかなりの広域地図であった。帝国の支配領域(自称)から、その外の周りの地域まで一枚に描いてあるためである。
支配地域(自称)は、帝国側の人間が足を踏み入れることができている、比較的安全な部分はもれなく記載されていた。
そこに住んでいる者の主張や都合は構わず帝国領土であるとしているのである。
さらに、支配地域(自称)はまだともかく、その周辺の部分の正確さは全く不明であった。
おそらく帝国から実際に行った者はほとんどおらず、伝聞をもとに適当に描かれていると思われる。
そういった事情を渡す側はわかっていたため、にじんでいる地図でも問題なかろうと渡しているのである。つまるところあんまり使えない地図であるのだ。
その地図と共に、少しのお金や、干し肉、堅く焼かれた携行食などの食料を数日分貰えた。
革袋の水筒を人数分3つもらったので、兵舎の外にある井戸で水をくんでゆくこともできるだろう。
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