第45話

…嫌な予感がする…大気中が震えているような感じがする。


「ヤトル!クガヤ!どこだ!」

サタヴァは砦の内部をあちこち走りながら、二人を捜した。


寒くもないのに自然と肌が粟立って来るので、何かが起ころうとしているのは確かなように思えるのだが、


それが何かということまではわからない。


何であろうと、何かが起こる前に、絶対に二人をここから連れ出さないと…!


そうこうしているうちに渦に面した側の門を通ってしまったらしく、

サタヴァは自分が外へ出てしまったことに気がついた。


門はまだ閉じられてはいなかった。


彼は知らぬことだが、その時そこにいるはずの見張りはいなかった。


外の空は薬草を取ってきた時とは違い、現在は曇っている。


霧がきれぎれにあたりを包んでいる。


大気に振動がある。音にでない振動が肌に伝わってくる。


砦の中でも感じたが、外に出ると振動ははっきりわかった。


どうもその原因となるものがここから近いところにありそうだった。


振動が来ると思われる方角には、天幕がはためいていた。


先程まで風はそんなになかったのに、今はかなり強めの風が吹いている。


時折やたらに強い突風が来るときがあり、


ともすれば天幕が全てひるがえって向こう側が見えそうな感じである。


…ここに良くない物の元凶があるような感じがする。


行くのは避けた方が良さそうだ…


砦の中に戻ろうと体の向きを変えたが、


そのときふと天幕のそばにあるものが目に入った。


見慣れた農具の槍と、鍋がそこに置いてあった。


…なぜここにこれが!


二人はこの天幕の向こう側にいるのか?一体なぜ!


早く別の場所に移動させないと!


急いで天幕をくぐり走り抜けていくと、また別の天幕があったので、同じようにくぐろうとしたが、


何かに引っ掛かり重くなっていた。


どうにかくぐって歩を進めたところに、兜をかぶり倒れている人が目に入った。


揺すったが返事はなく、兜を脱がせてみたがその瞳は虚ろでもう何も映していなかった。


どこかで見た光景だ。


以前目にした記憶が思い浮かぶ。


この旅が始まる前に同じものを見た。


兜をかぶっている、命の亡くなった体…


頭の中で現実と異なる情景が流れているため、まるで夢の中にいるかのような非現実感に襲われた。


夢で見た少女が兜をかぶっている姿が不意に脳裏に湧いてきてしまい、


何かに突き動かされるような感じとなり、


そのまま死者の兜を自らの頭にかぶった。


この時、探している二人が、この死者と同じ状態になっているかもしれないとは、


考えにのぼらせないようにしているサタヴァであった。


頭が麻痺しているようでもある一方で、


自分の剣は使えないから、兜だけではなく剣も取るのがいいのだろうと、冷静に判断している自分もいる。


死者の背中側には折れた矢があった。


おそらく矢が背中に刺さった状態で天幕近くに倒れたのだろう。


自分が天幕を開けるとき、遺体をひっかけて仰向けに転がしてしまい、矢はそのとき折れたのだろう。


こうした死者が出ているからには、武器が必要な状況であろう。


サタヴァは妙に醒めた頭で分析した。


この間、実際は瞬間的に色々な思考やイメージが頭の中でおこっているため、


門の外に出てからそれほど時間がたっているわけではなかった。


死者は剣を二ふり持っていたが、どちらも取り、

両手に抜き身のままそれぞれ携えて行くことにした。


進みながらこう思った。


…ヤトル、クガヤ!お前らが、

あんなに欲しがってた武器、あったぞ…


一振りずつ二人に剣を渡して、皆でここを抜けるんだ。


自分の剣はここをやり抜けたあと、修理に出そう。


早く渡してやらねば!きっと喜ぶだろう。


サタヴァは非現実な不確かな感覚が続いている中、

頭の隅でそう考えながら最後の天幕へ向かって進んだ。


サタヴァが最後の天幕に入るとき、

魔王像は頭が胴体に被さり、完成した状態で、

これから外に引いて砦から見える場所へ移動させようとしているところだった。


魔王像の脇に振動の原因、魔道士の設置したネックレスとその術式があった。


その場にサタヴァは足を踏み入れた。


兜をかぶり、両手に抜き身の剣を下げてあらわれたのだった。

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