第44話

「だいぶ形になっておるな、完成は近いかな?」ハモンドは満足そうに言う。


「炎の器具の組立ては終わりました。

もうまもなく魔王の像の方の組立ても完了します。」砦の者が答えて言う。


「こちらも順調な様子です」魔道士がフードのまま言う。


何やら小さな台の上に、ネックレスを置いて、周りに文様を描いていた。


「力を感じます。儀式は終え、術式は完成しております。徐々に魔法の力は復活するでありましょう。


術式が壊れてしまうので、ここからこのネックレスは動かさないように願います。」


「うむ、力の発動が見られたら報酬は渡そう」ハモンドは魔道士に言う。


「あの連中に、魔王像の存在を勘付かれておらぬのは確かだろうな?」今度は側近らに向かって言う。


「天幕の設置を手伝わせた正規軍らは砦の方に返しました。


ここにはもう戻らぬよう厳命しております!また、そろそろ渦に面した門もしめる予定です。」側近が返事を返す。


「それだけでは心許ない。門の近くの天幕の入口あたりに、誰か見張りを置け!


…そうだな、見張りがいても、強行して通ろうとする連中が出たらまずいな。


 もしそういう連中が出たら、


武器を持った者が近くにいると、聖なる祈りを捧げる女神様がお怒りになり、炎魔法が失敗してしまうため、


決してこちら側へ武器は持ち込むなと言っておけ!


必ず武装は解除させろ!」


ハモンドがそう命ずると、見張りが選ばれて門の近くへ向かって行った。


武装解除させろ、というのは、


使用前の状態の魔王像を目撃したギズモンド側の兵を、


ろくに抵抗させないうちに、口封じで始末するためであった。


だが見張りが門の近くにつく頃、すでにわらわらと数名の兵たちが天幕をくぐって魔王像の方へ行ってしまった。


この兵は、レベラが行ける範囲だけでいいから素早く様子を見てこいと指示を出していた兵であった。


命で急ぎで来たのだが、それぞれ帯刀はしていた。


ただ兵達は、速度優先で来たため、鎧などの重装備のものはおらず、


防具としては硬めの皮の上着などに加え帝国式兜の着用をしている者がちらほらいる程度だった。


最後尾に走って行ったものなども、帝国式兜をかぶり、両脇に帯刀しているのが見張りから見えた。


「こ、こら!お前ら!武器を置いていけ!」


しかし運悪く声が届かなかったのか、それとも聞こえないふりをしたのか、

彼らはそのまま走って行ってしまった。


見張りは思った。


追いかけてとめるにしても、

戻って連絡するにも、

どう考えても間に合わない。


今の連中の方が先に進んで行ってしまっている。


むやみに追って、確実に叱責されてしまうよりも、


自分が見張りについた時には、この連中には会わなかった、


場所につく前に通り過ぎていたのだろうということで、押し通そう。



レベラ側の兵たちは天幕を進んで行った。


ハモンド側の人員は、みな洞窟からすぐ近くの、魔王像のある天幕に集まっていたので、


中間部分の天幕は無人であった。


魔王像の設置を急がせそちらに集中させたためか、


そこまで気を回す者がそちら側にいなかったのか、


結局、このあたりの警備はザルになっていたのだった。


レベラの兵たちは、誰にも見咎められることなくそのまま先を進み、最後の天幕に入った。


「なっ…何だこれは…」


ハモンドたちが振り返ると、彼らの知らないうちにあらわれた兵たちが、数名こちらを見ていた。


魔王像は、胴体と首の部分がわけて置かれており、


あとは首の部分を胴体の上にのせるだけの状態となっていたのだが、


その状態で目撃されてしまったのだった。


「魔王…か…?こ、これは、ただの人形ではないか!

…我々をたばかるつもりか!」


「貴様ら!ギズモンド側の兵だな!

くそっ見張りは止めなかったのか!」

ハモンドは叫んだ。「こいつらを殺せ!早く!」


兵たちは帯刀してはいたが、


側近らが至近距離からいきなり斬りかかったため、不意をつかれその半分ほどが血しぶきをあげて倒れた。「ぐわあっ!」


「き、貴様ら…仲間を殺そうと言うのか…

これまで共に戦ってきた仲間を…」

残りの兵は剣を構えた。「こやつらは仲間殺しだ!敵と思い戦え!武器を持っている奴から率先して倒せ!」


「殺せ!何をしてる!早く殺せ!全員殺せ!」ハモンドが甲高い声で叫んだ。


レベラ側の兵が斬りかかろうと向かって行ったが、


弓矢で狙いうちされ胸を貫かれ、一番後ろにいた一人をのぞき、倒されてしまった。


最後の一人は前の仲間が自分の盾となり倒されてしまったのを見ると、じりじり後退し、踵を返すと、


レベラに伝えるため、来た方面へ走りはじめた。


「逃がすな!殺せ!殺せ!」ハモンドが叫んだ。


最後の兵は背中に矢を受けてしまった。それでも途中の天幕まで辿り着いた。


だが天幕を掴みながらずるずると地に倒れ、

そして動かなくなった。


ハモンドは言う。


「これで今きた者は全員殺したが、ほかの連中がまだ来るかもわからん!


魔王像をすぐ稼働させてしまえ!


また、これから誰か来て、魔王像を偽物だと気づく者がでたら、


そいつもためらわず、すぐに殺すのだ!


…なに、魔王があらわれて殺されたということにしておけば、どれだけ死人が出ても問題はない!」


側近らが、今倒したものが確実に死んでいるか確認したほうがいいと述べたが、


魔王像の方を早く優先させろ、その確認は作業がおわってからにしとけといわれたので、そのままになった。


ヤトル、クガヤの二人は不慣れな砦の中をトボトボ歩いていた。

「このあたりはどのへんですかね…」


「最初の入口あたりに戻った方がよくね?」


「そのつもりなんですけど、どう行くかわかりません。


誰かに会えたら聞こうと思うんですけど、皆さんいつの間にか居なくなってしまったし。」


話しながら進むうち、開けた場所に二人は出ていた。


「外が見えますね、霧が濃いですけど。」


「あれっ、いつの間にか外に出たわ。」


ふと見たら天幕がある。


「ここ入って行くと、誰か会えますかね?」


「こら!そこの二人!」声がかけられたので二人は振り返った。

「そこから先を行くなら、武器を置いていけ!」


声をかけたのはハモンド側の見張りだった。


二人はとりあえず言われたとおり槍と鍋を天幕の前に置いた。

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