第43話
「ヤトルどうする?なんかこのへん見て回る?」
「どうでしょうか、知らない場所ですし。
落ち着いたり、行ったりするとこがわからないですよね…」
クガヤとヤトルの二人は、砦の中の入口の近くで立ったまま会話をしていた。
誰かに休める場所を聞いて、どこかへ腰を落ち着けて休みたいところだったが、
本隊の人達と話をするのは、隊長であるサタヴァが戻ってからと思っていたため、二人だけでいたのである。
「あんまり最初の場所から離れないほうがいいんじゃないですか?
サタヴァさんも不案内なとこだから、後から探すの大変になりますよ。」
ヤトルに言われ、ここでサタヴァを待とうと二人は合意したところだった。
だが、「どいたどいた!」と、手押し車が何台も入口から入ってきて、
最初にいた場所は車が通る邪魔となるため、
砦の内部へと移動せざるを得なくなってしまった。
周りの人達は、なんだか大量に荷が来ただの、思ったより遥かに早かっただの、ブツクサ言いながら道をよけて荷を通していた。
荷はどこかへ運ばれて行く様子だった。
ヤトルとクガヤは人の波におされ、砦の中をわからないまま進んで行ってしまった。
これらの荷は、例の魔王像と器具の残りの材料、カモフラージュのため用意された食糧などだった。
ハモンドが必ず速く持って来るよう命を出したので、帝国まで連絡を出していたのだが、
必要な内容のものを、近くの大きめの町で全て用意できることがわかったため、そちらで先に用意させたのだ。
そのため帝都から運ぶより遥かに速く到着したのだった。
残りの材料の内容は、魔王像の最終仕上げのための塗料と、炎を出す器具の燃料だった。
器具の燃料については、すでに当初から必要とされる量の用意はされていたのだが、
魔王像がうまく燃え尽きるまでに炎が途絶えてしまうとまずいため、
念のため多めに用意させたのだった。やり直しがきかないためである。
魔王像の塗料についても、ハモンドが出来栄えにケチをつけたため、もう少し手を入れることになったためだった。
つまり、ものはもう完成していると言って差し支えない状態であったのだった。
荷はこの後まもなく、食糧などをおろしたあと、残り材料のみが洞窟まで運ばれたのであった。
「これより炎魔法の祈りを捧げる」ハモンドは宣言した。
「私にはお告げがあった。
もう時を待たずとして、魔王がこの世に出現するという。
私は大貴族のつとめとして、これなる魔王を、先祖代々より伝わる神聖なる炎魔法により、打ち倒すつもりである。
だがそれには準備がいる。
儀式のため、天幕をいくつか用意する。
わが炎魔法は、必殺の秘術である。
人に見られては集中できず、失敗となる。
皆の者、くれぐれも天幕の中へ入って来ないようにしてほしい。
また、天幕を設置するため、渦に面した側にある方の門は、しばらく開放したままとする。
魔獣などがせめてきたら無防備となってしまうため、
設置が終われば、速やかにそこの門は閉じる予定である。
なお、儀式を手伝う一部の者についてのみ、天幕の中の通行を許可するので、
了解のほどよろしく頼む。」
サタヴァは目当ての薬草を採取して砦の入口まで戻ってきた。
「先程の者だが入れてくれ。」
だが砦の入口の者は、出る時に話したのとは違う者だった。
交代の時間が来ていたのだった。
「もう荷は運び終わったと聞いた」
もう通さないと言わんばかりの口調だった。
「さっきすんなり外に出してくれたじゃないか!中へ入れてくれ!」
サタヴァは焦った。
「仲間が中にいるんだ!」
入口の者は他の者から、入れてやれ、遅れてきた奴かもわからんと言われ、ようやくサタヴァを通した。
(なんだか先程とは砦の様子が異なる…
雰囲気が違い、妖しげな感じがする。二人と早く合流しないと!)
だが二人は最初の場所にはいなかった。
(どこだ!どこへ行った!)
ハモンドの宣言を聞いて、ギズモンドと参謀レベラが急ぎハモンドに話をしにやってきた。
ギズモンド側の言い分としては、いきなり全体にかかわるような作戦を、個人で断行されるのは困るということであった。
ただハモンドは、それについては、女神様の啓示があり突然決まったので協力してほしいといい、
炎魔法を使うのは以前ギズモンド卿からご依頼があったことでもあるではないかと述べた。
ギズモンド側は納得できない部分がありながらも、それを追及するには要素が足りないので、心中歯噛みしている状況だった。
ギズモンドはその場を去った後、参謀レベラだけに心のうちを話した。
「魔法だの啓示だのと言われると、大貴族でない自分にとってはなんとも確かめようがない話だ。」
「自分は大貴族どころか平民出身なので、全く関与できない話です」レベラは答えた。
「どうも怪しい感じの話に思う。
こちらの配下の何名かに、それとなく見張るようにさせておいた方がいいかもわからんな…」
二人は額をあつめて相談した。
そうこうしているうちにも、天幕の設置は進んでいた。
天幕は洞窟あたりから、渦へ出入りする門の近くまで、三つ設置された。
まず洞窟に近い方から先に設置され、
渦がわへ出入りする門と洞窟の中間あたりに一つ、
最後に出入りする門の近くに一つ設置された。
最後の設置が終わったあと、
天幕の設置には人手がいるため、手伝わせていたギズモンド側の正規軍の者たちに、
設置が終わったので、炎魔法が終わるまでは、もうここには戻って来ないようにと、
ハモンドの側近の者達は指示をした。
ちなみに洞窟から出される組立て前の魔王と炎の器具は、
洞窟すぐそばの天幕にて組立作業が行われるが、
設置が終わって実行する時点になると、魔王は天幕から出されるという段取りだった。
底の部分にコロがついているので、移動自体はそんなに大変ではないのだ。
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