第37話
エスルデの壁上に、屋根のない平べったい足場があるのだが、
そこにギズモンドと、参謀レベラが、砦の案内役の係の者と共に登っていた。
二人が目的地周辺をここから目視したいと頼んだのだ。
「うーむ…思っていたより見晴らしが良くないな…」
「そうですね…」
目的地と思われる周辺が良く見えてもおかしくない場所に今いるのである。高さもあり、予定では良く見えるはずだった。
だが、霧が視界を塞いでおり、湿地や平地など、土地の表面が霧の切れ目にきれぎれに見える感じとなっているのだった。
「ここはいつもこんな感じなのか。」
係が質問の意図がわからず不思議そうにしているので、レベラが「霧のことです」と補足した。
「湿地や沼地が多いので霧は昔から良く出ますね。
でも、霧は、出るといっても、少し前までここまで包み隠す感じではなかったです。」
その時は目的地周辺や、そこの渦は普通に見えてましたよ、と係の者は言った。
「渦がここから見えるだと?全くわからないが…」
「そうです。例の、そちらが目的地とされているあたりにできているという渦も、見えていたんです」
「話は聞いておるが、ここからではどこにあるのかよくわからんな…」
「渦は大きさを良く変化させているみたいです。
それに、渦が見えだしてしばらくしてから、霧も濃くなってしまったので、
渦自体が見づらくなってしまっているのです。
毎日このあたりで暮らしておりますと、見えることがある時もありますが。」
肉眼で目的地も渦の部分などもすぐに確認できるだろうと思っていた二人は唸っている。
係の者が一度下に降りて、手持ちの遠望鏡を持って上がってきた。「これだとやや拡大されるので見やすいかもしれません。」
二人は遠望鏡を渡されてかわるがわる覗き込んでいる。
「この方向で覗いてもらえますか」
係が指さした方向を覗くと、霧が濃く筒状になって見える場所があった。
遠望鏡から目を離して、肉眼で見ると、そういえばなんとなく筒状になって見える部分がある。
しかし結構遠方のように思える。筒に見える部分の幅の大きさがそこそこあるので、近くでみたらかなり大きいと思われた。
この濃く筒状に見える部分が渦のはずです、と係の者は言った。
魔獣が出だしたと報告があったころから、渦が観測されだしたのです、とも。
二人が魔獣に関しての対処を聞いたところ、壁に辿りつく前に、壁上から弓矢で狙いうちして倒し、火で焼いて処分しているとのことだった。
こちらへ向かってこない魔獣については、どこかへ向かったとしても、対処はしてないとのことである。
ひとつには霧で全体の数の把握が難しいことがあるが、例え把握したとしても、全てには対処しきれないのでと。
レベラは、やはり帝都で聞いたときと現地では時間差がでるため事情が違ってきますね、と言い、
来てみないとわからない部分はあるだろうなと、ギズモンドも頷いた。
「魔獣や目的地の渦については現状を了解した。ところで、魔王軍については何か新しい情報はあるか」
「魔王軍については、自分はよく知りません。」係の者は申し訳無さそうに話す。
「ただ、魔獣ではなく、幽霊のような、人のようなものが多数あらわれては消えていくのを見たと言ってる者たちが複数名おります。
武装をしており攻撃してきたなどと言ってる者もおります。ただその者は無傷で帰っております。
この噂話が魔王軍の出現とされているように思われるのですが、今のところ魔獣と違い実害がないため対処しておりません。
こちら側としては、以前から魔物が出る伝説もある場所なので、
恐怖にかられて集団で幻影をみたのではと分析する向きもあります。
見たとした者たちも、ただ彼らは霧の中をさまよっているばかりで、ここまで来ようとしたことがないと話をしております。」
「いずれ偵察に出ようとしていますが、うちがそれらの現象に出くわすことになりますかね…」レベラは心配そうに言う。
「出くわしたら大きく迂回するか、調査を切り上げて戻ってこいとしか言えないな…幻影の類であると良く言って聞かせるほかないだろう」
ギズモンドが難しい顔で言う。
偵察する兵士がそれらに出くわすと士気がひどく落ちそうだ、
人員の選抜は慎重に行おうと二人は打ち合わせをした。
本隊は砦にしばらく逗留することを許されたので、兵士たちも野宿しなくてすむと喜んだ。
逗留の間、魔獣などあらわれた場合については協力して倒すことになった。
また、砦の者たちは、家畜を食い尽くすことがないように、時折、森にでかけて狩りをしているとの話をきき、
一行は逗留で人数が増えるため、自分らも森で狩りをして獲物を捉え、分かち合おうという話を砦側とし、了解を得た。
ギズモンド側がやや疑問に思ったのは、到着早々、正規軍の一部とハモンドの姿が時折見えなくなるということだった。
問いただすと、砦内部の様子を調べておきたいから席を外しているだの、
あるいは普段ここまで来ることがないため、砦の責任者らや人員たちと交流をはかっているのだ、などという答えが帰ってきた。
そう言われてしまえば、それ以上追及することは難しかった。
討伐軍の指揮官はギズモンドであるが、ハモンドは大貴族の子息である。
年齢的にも二まわりほどハモンドの方が若いが、貴族としての身分的にはハモンドが上のため、どうしても遠慮がでる。
そのため、適当な理由での解答があると、よほどおかしな理由でない限り、それ以上問いただすことはできなかった。
しかしこれまでの行軍において、ハモンド側から色々うるさく口出ししてきたのに、
ここにきて突然、向こうから距離を置いてきた形になっていたので、なんとはなしに少し気持ち悪い思いをする二人だった。
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