第25話

「小僧とは俺のことか」


「他に誰がいる」白い獣は牙を剥きながら言った。


「我は二百年この方生きておる。貴様なんぞただの小僧だわ」


「ヤトルを、こいつに対する術を解け!」


「解いてどうするというのだ。」

獣は目を光らせている。


体の回りが何やら禍々しい妖気で包まれているが、それらが膨らんで、サタヴァに圧をかける。


「ここは我の縄張りだ。


縄張りに入り込んだのは貴様らだ。


罠にかかったのも貴様らだ。


我の縄張りに入った獲物をどうするかは我の勝手だ。」


「解かないというなら戦うしかないぞ!」剣の刃を構える。


「まあまて、小僧、なぜそいつの術を解かせようというのか?


我から引き離して独り占めしようというのか?ここは縄張りの中だから我は許さぬぞ。

ただ、」

獣は舌舐めずりをしながら言った。


「我も話はわからなくはない。戦ったらお互い傷つく。分け前をやろう。


全部はやれぬが、そいつの足か腕の1〜2本くらいならやってもよいぞ。


それに、こちらに来て残りの人間を捕らえるのに手をかしてくれたら、さらに取り分が増えることになる。

共に喰らおうではないか。」


サタヴァは疾く獣の首を刎ねた。


ふいにあたりが明るくなったように思え、ヤトルは目をパチパチさせた。


サタヴァが自分の肩を揺すりながら、「しっかりしろ」と言っていたようだが、その声は遠くでしているようだった。


しかし、だんだん耳元で聴こえるようになってきて、肩にのせられている手の感触もわかるようになってきた。そうするとまわりの光景がパッと頭に入ってきた。


なんだか丈高い草ボウボウのところに立っている。しばらくして草の合間に井戸があるのが見えた。


「ヤトル、しっかりしろ!」


「聞こえてますよ。」ヤトルは口を開いた。「あれ、井戸を探しに来てたんですけど、知らないところにいつの間にかきてました。


そこにも井戸ありますけど、こんなに草はなかった感じです。僕、今ウトウトしてたんですかね?」


ヤトルはしかし建物の方を見て驚いた。建物は屋根が崩れた部分が多く、壁も穴だらけで外が見える。そしてボロボロの床の隙間から草が生えていた。


「うわっ何だここ!僕らがいた建物から違うとこまで歩いて来ちゃったんですかね。」


しかしサタヴァが話したことによると、ここは最初に辿り着いた建物であった。そしてそこの草だらけな井戸は、とても同じと思えなかったのだが、最初見つけた井戸と同じものだった。


サタヴァには最初からこの状態で見えていたらしい。


こんな屋根や壁がないようなところでは、夜寒いかもしれないとサタヴァが言うわけだ、とヤトルはやっと得心がいった。


「幻術をクガヤと僕はかけられていたんですか」ヤトルはブルッと身を震わせた。

「そいつは倒されたと。じゃ、もう安全なんですかねえ?」


「それが…自分もはっきりわからないが、まだ何かこのあたりにいる。


小さくてあまり害意は無さそうな気配はするが、術は使うタイプのように思う。


あと、まだ遠いが何か大きなものの気配を感じる。どちらかというとこちらの方が警戒しないといけない。こちらに向かって来なければいいが。」サタヴァは言った。

「クガヤはどこだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る