第49話

今度はサタヴァの方が砦に戻ったときにあったことを二人に話した。


天幕の横に槍と鍋があり、二人がいると思って天幕を進んで入ると、遺体が折り重なって倒れている場所があり、

二人がそこで亡くなってしまったと思ったことも。


「それでお前どうやってそこから抜け出したんだ?」


サタヴァは自らが姿を変化させたことは話さなかった。

攻撃され、ルクが転移してくれてそこから逃げることができたと話した。


省いた部分は多いが嘘はついていない…


今の格好はその時のままで、兜と二ふりの剣を持ったままだ。


顔が見えづらく、一見して誰かわかりづらいかもしれないが、


マントやら服が特徴的な素材なため、クガヤにはすぐわかったらしい。


ちなみに変化の時には身につけているものは、姿が戻る時に一緒に戻る。


身体の変化は、体が一度バラバラの細かい粒子状となり、それを瞬間的に他の姿へと再構築するのだが、


身につけているものも共に細かい粒子状に変換される。


それは構築後の姿の余りとして折り畳まれたような形となり、

変化前の姿と紐づけして変化後の体内へ保存されている。


姿が戻る時それらも一緒に再構築されて戻るのだ。


さらに、余りではなく、変化するとき物質が足りなくなる部分があるときは、

空間に偏在するエネルギーなどを集めて構成することになる。


実はかなり体力気力を消耗する術である。


ルクいわく、余りなんかは別の空間に入れとけ、足りないもんもそっから取れば楽だぞというのだが、ざっくりすぎて何やら良くわからない。

そんなことまでやったことはないサタヴァであった。


三人が炊事と風呂の準備を終えた頃に、鍛冶屋のおやじさんが帰ってきた。


見なれない服装の、なんだか悲しみにうちひしがれている男を一人連れている。


「あれっおやじさん!お帰り!」クガヤ共々三人は挨拶した。


サタヴァは初対面だがヤトルはもう面通し済みだ。


「探してる奴に会えたらしいな、良かった。まあ、しばらくここにいてくれていいから。」


「ところでおやじさんどのへんへ行ってたんだ?その人は知り合いの人?」


おやじさんが言うには、振動が酷すぎるため平野あたりを覗いてみたところ、渦の周囲に見たことがない細長い物体が横たわっていたこと、


帰り道、森で、この男が疲れた様子でしょんぼりと立っており、


言葉が通じないが、身振り手振りで以下のことを聴き出した。


いわく、渦の近くに落ちた細長い物体から歩いて森まで来たと。


森の中で泉を見つけ水を汲もうとした時、武器を落としてしまった。


ところが泉の中から女の人があらわれ、それを持ち去って泉に入り消えてしまったと。


また、男はここに来る前に酷く辛いことがあったらしく、嘆き悲しんでいる様子で、行き場もなさそうであり、


気の毒に思い連れかえったということだった。


「あの泉は仙女の泉と言われている怪しい泉なんだ」おやじさんは言う。


「なにか泉に落としてしまうと、金色や銀色に色づけられた別のものを、これですか?といいながら、渡そうとする。


これではない!と、相当強く言い張らないと、なかなか元のものは返してもらえないらしい。


ここで鍛冶屋やってると、泉が比較的近い場所にあることもあり、


泉で変になったものを元に戻せとか、変な依頼ばかり来るもんで、


嫌になって窓口を別の場所にかえたんだ。作業はこちらに持ち帰ってやるんだがな。」


人数が増えたので食事を追加で作ろうとすると、男はひどく恐縮して何度も礼を述べているようだった。


「ま、困った時はお互い様だから気にするな」おやじさんは言う。

「今日はもうこれで休むが、明日どうにかして泉の方に文句つけにいかないといけないな。」


また、サタヴァの剣の刃こぼれを聞き、状態を見ると、


さほど酷くはないから明日出る前に少し直してみるわい、


早朝作業を行うからこのまま貸しといてくれい、と言ってくれた。


一方砦では、ギズモンド側から見たら例の件はこんな塩梅であった。


レベラが様子を見に行かせた兵が戻らず、妙な振動も怪しまれたため、より多数の兵士を儀式の場所へと再度赴かせた。


そして彼らは、ルクがサタヴァを連れ去った後の場面を見ることとなった。


それは、最初の兵達の遺体と、腰を抜かし狼狽えているハモンドや側近達、興奮してわめいている魔道士などという光景であった。


魔道士は「魔神がネックレスを気に召して渦の近くへ持って行ってしまった」などと口走っていた。


魔王像は近くで検分され仕込みであることが露見し、未使用の炎を吐く器具と共に押収された。


ハモンドと側近は捕縛されたが、相当な恐怖となるものを見たらしく、取り調べに対しまともな応答ができなくなっていた。


魔道士も同様に捕縛されたが彼の言を解する者はおらず、興奮して叫び声をあげたりしていることもあり、気が触れたとされた。


倒れていた兵士の中に、ただ一人息のある者がおり、かなり危ない状態ではあったのだが、どうにか処置が間に合い命をとりとめることができた。


ただ取り調べに協力できる状態とはほど遠く、回復を待ってから話を聞くこととなった。


やがて、ハモンドの側近の一人が口を割ることとなり、事件の全貌が明らかとなった。


殺しても何度も蘇る兵がいただの、炎を吐く鳥があらわれて消えただの、という言い草については、

現場には何の跡も見られなかったため、仲間を殺めた罪の意識から集団幻覚でも見たか、という扱いだった。


ギズモンド側はハモンド側近の話から、砦の協力者達を割り出し、取り押さえた。


このため、砦は帝国の支配下に置かれることとなった。


本来ならば砦側が素直にいうことを聞くはずなかったのだが、


すでに帝国側が砦内部に入り込むのを許してしまっていたため、抵抗は難しかった。


それでも抵抗してくる者に対しては、対魔王軍の兵装が、そのまま砦の取り押さえに役に立つこととなった。


クガヤ、ヤトルがその場にいたままだと、取り押さえる時の対人相手の戦いへとかり出され、怪我をする可能性があったため、すぐ砦の外へ出たのは正解だった。


確かに彼ら二人はそれぞれの目的のため徴兵には参加しており、戦闘にはなるんだろうと思ってはいたのだが、


戦闘と聞いても命がけになるとはピンと来ておらず、それだから来たというところはある。


一つには、それまで魔獣退治での徴兵などは、ほぼ遠距離攻撃ばかりで作戦指揮されていたことがあり、


そのため噂に聞く兵士達の被害は、死を覚悟して出ていっても、今回も無事戻れたという話がわりとあったのである。


これはギズモンド、レベラの作戦が功を奏していたためである。


アイオーン帝国は大陸の中では統一された一つの国であり、

他に国はないという主張をしており、


周辺地域はそれをなあなあでかわしていたため、対人の戦闘はさほどおこらなかったという面も大きい。


ただ二人は鳥魔物との戦いで恐怖したこともあり、当初の目的が終わったならもう帰りたいところだったので、砦を出る話は渡りに船であった。


ともあれ、ハモンドと側近らは帝国へ厳重に護送されることとなった。


大貴族の子息が裁判に立たされる立場となるかどうかは、まだ未定であるが、


罪のない帝国の兵士たちを殺害したという罪状と、ギズモンドの地位簒奪をたくらむため、偽の噂で帝国軍を動かしたことについてなどの証言、


魔王像やら炎を吐く器具やらの動かぬ証拠があるため、現状罪人の扱いではある。


自分で選抜した顔見知りの兵達をほとんど殺されたレベラは、ハモンドが大貴族だから悪くすると処分の対象にならない可能性があると聞き、怒り狂っていた。


だが、ハモンドらが精神的にやられてしまったのは事実のようだった。

彼らがおかしくなったという噂はたちまち帝国側に広まった。


女神を敬わず、魔神を呼び出す儀式をし、神罰があたり気がふれたこととなっていた。


そしてその噂はこう続いた。


魔神は実は呼び出されてしまったのだが、

秘密裏に活動していた諜報部隊が、その魔神を見事討ち取ったと…

なぜだかそういう尾ひれが付け加わり、広まることとなった。


ギズモンドらは、妙な振動が終わらず、魔獣やら幻影やらが増えてきたのには気づいたが、どうしようもなかった。


これまで通り、砦に近づく魔獣を退治することに終始することを命じることとなった。


その後ここは完全なる帝国領とされ、

帝国側の兵士達を恒久的に配属することとなり、新たに編成した部隊を帝国側から送ることになったが、それはまたもうしばらく後の話である。


ともあれ、幻影や魔獣はともかく、

魔王や魔王軍は存在しないことが明らかとなったため、


帝国側はこの時点から戦後処理に移ることとなったのであった。


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不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜 サカキカリイ @nemesu0

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