第10話
クガヤは話しだした。
「この地図、消えている部分の方に文字が書かれているみたいなんだ。
なので場所や重要な情報などが書かれていたとしてもわからないままだ。
これは本隊が使う情報かもしれないので、俺ら関係ないかもしれないんだけど。
困るのは、すごく基本的なことなんだけども、現在いる場所が地図上でどこにあたるかが、全くわからないことなんだ。
目立つ場所だから、宿舎なら宿舎、とかでも書いて印をつけておいてほしかったよ。」
クガヤによると、自分がいる場所が地図上でわからないと、行くべき場所に印をつけてもらっていても進むべき方角がわからないとのことだった。
「あと、先程の地図くれた人が、行先に赤丸つけると言ってくれてたけど、赤丸は二つついている。どちらのことかわからない。」
赤丸は、にじんでいる部分に大きくつけてあるものが一つと、そこからだいぶ離れたところに、やや小さめにかかれているものとがあった。
「それ、一つはここの場所でもう一つが行先なんじゃないの?
わざわざ赤丸つけておくよって話してくれてたじゃないですか。」
「丸は一度しかかいてなかったように思う。」
「だからそういうのは最初からつけてあったってことなんだよ、ここの場所の印が。」
「それか、丸を一度しかかいてなかったんなら、地図を丸めたときに、書いた丸が丸めた場所に重なって顔料が写ったんじゃないか?」
クガヤは最初に渡されたときのように地図を丸めてみた。
しかし、二つの丸は重ならなかった。
「これでは顔料はうつらないと思う。別々にかかれたんだと思う」
「重ね方が違うんじゃないか?
あるいは、途中で握りしめてしまって、丸めたときとはちょっと離れた場所に顔料がうつってしまったとか」
クガヤは地図の丸め方を、大きくしたり小さくしたりして印の重なり方をみていたが、首をふりながらそれも違うと思うと呟いた。
やっぱりどっちかの丸が最初からつけてあり、後から先程の人が丸を別の場所につけたんじゃないか、という話になった。
「うーん、とすると、どっちがどっちなのか、というのが問題ですよね。
僕は、小さい丸のほうが今いるところで、大きい方の丸は行く場所だと思います。」
ヤトルが言い出した。
「普通でしたら行先を目立つようにするはずですから。
人に親切にしようとしたら自然にそうするはずですよ。
あの人、親切な人に見えましたし。」
「大きい方の丸が最初から書いてあったように思う」
クガヤが主張する。
「大きい方は、なんか書いてある線がちょっと薄いように見えるから、前から書いてあるような感じがする。」
「いまさんざんそっちが丸めたり広げたりしてるから、顔料がそのぶんはげてきただけなんじゃないですか?
大きいもののほうが、劣化とか目立ちそうだし。」ヤトルも言う。
「話を戻すけど、今の場所が地図でどこにあたるのかがわからないと、どちらの側にも行けないんだ。」クガヤが主張する。
「地図に他の情報はないか。文字は判別できなくても、丸以外にかかれているものを見て推測できないか。」サタヴァが言う。
三人で頭を突き合せて話した結果、山のようにかかれている絵は、見える限りの山々に当てはめてみることが可能だった。
また、山のかかれていない部分は、この周辺の平原みたいな感じなんだろうかな、という話の流れになった。
「山々と平原の位置を、この地図に当てはめて見たら、この小さい方の丸が僕らがいた宿舎で、大きい方の丸がやっぱり行先に見えますよ。」
「うーん…このへんの地形を当てはめるとそうなるよな。」
クガヤは自説を引っ込めるのが嫌そうだったが、しぶしぶ認めた。
「まあ、行きながら、村とか見つけたら寄ってみよう。
そこが薬草の補給場所とされているところだったら、担当者とかが居るようならこの件がわかりそうだから、捕まえて聞いてみたらいいんじゃないかな。」サタヴァがまとめた。
「どちらにせよここからまっすぐ納品場所に行くわけにはいかない。
まず薬草の用意ができなければな。
山の方へ行くから、ここよりは小高い場所に出る。
見晴らしの良い場所からなら、村などが見えたりする場合もあるから、そしたらそこにむかって進めばいい。」
残りの二人もそれに賛成した。
サタヴァは腰につけている剣を抜きはなち、しばらく手に持ったまま立った。
剣の刃に、行く方角の吉兆がどう出るかをみているのだ。
験担ぎともいえるようなことで、彼はしばしばこういうことをしているのだった。
折しも日の光が雲の合間から差し込み、剣の刃をギラリと光らせた。
光はサタヴァが鞘に剣を戻すにつれて刃の上をすべり、放射線状にきらめき、
山々遠く連なる彼方を飛ぶ鳥達の、敏く鋭い目を驚かせた。
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