第39話

薬草部隊はクガヤに先導されて、重い体を引きずりながら、鍛冶屋が居たとされた居場所までどうにか辿り着いた。


それは古びた小屋で、集落や村などの中にではなく、一軒ポツンと森の中にあるため、


場所を知っていないと行きづらい感じのところだった。


玄関からのぞいて見える部分には、住居として使う居間や台所と、鍛冶作業用の部屋とがあった。


一行は声をかけたが誰も出てこず、足元もよろけていたため、失礼ながらすぐ居間の方へ入った。


「鍛冶のおやじさんは居ないや…」わりと元気なクガヤが、小屋の裏手を探して帰って来てから言った。


しかし、小屋は外観は古びているが、中は誰か住んでいても不思議ではない程度には片付けされていた。


とりあえず休ませてもらい、後からおやじさんに会えたら、事情を説明しようということになった。


ヤトルは倒れ込むように居間の床に落ちてしまったので、そのまま横たわらせた。


みんな、明け方からこれまで、叩き起こされて休まず体を動かしたこともあるし、


体に毒が残っている者もいたこともあり、すぐ寝てしまったらしく、


後から話し合ってみても、その時思い出すことのできる最後の光景は、みな、ヤトルを寝かせた部分までだった。


そうしてサタヴァはいつの間にか、先程の夢にまた入りこんでいたのだった。


「あの草を倒してくれて良かった」少女は言った。


「元々この世界にはないものだったけど、魔獣の体にのって運ばれてこの世界にきてしまい、


もう少しであそこに根付くところだったの。


増えると根絶が大変だし。


以前あなたが見た遺体は、あの草の匂いの毒性の部分が、魔獣がこの世界にあらわれたときに、付着して共にあらわれた。


それが風向にのって帝国領へ漂ってきて、それにあてられた被害者がああいうことになったの。


でもその時は、遺体のあったあたりに、原因の草が根付いていたわけではなかった。


今回燃やしたものが根付いてしまった最初のものなので、取り除いてもらえて本当に良かった。」


ああ、また夢を見ているのか、とサタヴァは思った。


いきなり少女との会話が始まっている。


今回は吊橋の上にいるわけではなく、広く暗いほこらのような場所の中にいるようだ。


ほこらの中には、何やらたくさんの箱やら布地やら、家具の足のようなものやら、様々なものがところ狭しと積み上げてあった。


少女は兜を被ったまんま、布地の上にちょこんと腰をおろしていた。


ここは一体何をするところなのだろう、とサタヴァは不思議に思った。


「俺に話があると言っていたな。一体何の話だ。」


「実はあまりよろしくないことがおこってしまっているの。」少女は言う。


「あなたがいる森から少し離れた場所だけど、砦があって、そこで…」


「…ヴァ!サタヴァ!」誰かが揺り起こしている。


「…どうした」知らないうちに鍛冶屋の住まいの居間で、寝てしまっていたようだ。


ヤトルはまだ床で大の字になって寝ている。


麻痺から抜けるのにまだ時間がかかっているか、明け方の作業で睡眠が十分取れず消耗が酷く堪えたのか、

そのどちらも、だろうか。


話しかけてきたのはクガヤだった。「よく寝てたぞ、もう夕方になるよ。

おやじさん、どうやら今日はもうあらわれないと思う。」クガヤは言う。


「今から外に出てなんだかんだはきついから、ここでこのまま宿泊させてもらえたらいいと思う。」


夕方!もうそんなに時間が経つのか…


「わかった。野営の支度もいらないから、今日はその方が良さそうだな。」


ただ、サタヴァは念のため、小屋のまわりの様子を再度見てくるつもりだっだ。

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