第12話

三人の部隊が小休止しているのは昼頃だった。


サタヴァの指導により、山地に生息する薬草を数種類、取りそろえて重ねたところだった。


その周りに座って、三人は一息ついている。


薬草は軍で使用することを想定し、止血、打撲、痛み止めなどが効能の主となるものが集めてあった。


「それにしてもあんまり量とか採れない感じなんですねえ。


その辺にもっと生えてそうなんですけど。


畑なんかに雑草生えたら引き抜くのに毎日大仕事なんですけどねえ。


意外に薬草だけに絞って探すのは、結構大変なんですねえ。」と言うのは、農民のヤトル。


「他の用途、強壮効能なんかも使う感じなら、もっと種類多く持ってこれたんだけどな。


今集めてるのは、傷口に貼ればいい薬草が主なんだ」とサタヴァが答える。


「やり方をわかっている人間が加工しないと毒になる種類の薬草を見つけてはあったが、加工だのなんかは薬師のほうの仕事になるんでとらなかった。」


「そんなん区別せず普通に納品したらいいじゃんか。薬草にはかわりないんだろ?」と商家出身のクガヤ。


「そうは言っても軍に薬師はさすがに連れてかないと思うぞ。いざ使うときになって、専門的な加工や時間が必要ですって言われても向こうも困るだろう。


それに加工次第で毒になるかもしれないものを、加工せず納めるのはまずい。


加工方法書いといても、向こうが間違えてやったら、命にかかわることとなる。


後味悪いし、恨みをかったりしたら本当に恐ろしいことになるぞ。

また、そんなことになったら、どこも出入り禁止になると思う。」


「ま、そりゃそうかもしれないなあ。

商売上出入り禁止とか、痛いなあ。


一応、薬草の納品ではあるから、契約上では非がないことになるけど、先方の使い方が悪いせいでも、こちらが責められる感じになるかもしれないのはなあ。

ちょっとやめといた方が良さそうだなあ。


ところで、ヤトルは薬草なんか畑で育てたりしないのか?毒とかにならないやつを。副業で薬草売りできるぞ」とクガヤ。


「いやいや、食料になる作物作るので精一杯で、そんな余裕ないです。」とヤトル。


「いま思えば雑草抜くときに薬草として使えるものもあったかもしれないですけど。


そのあたりを栽培すると、作物に与える肥料が足りなくなるんです。あと水なんかもそっちがとっちゃいます。


ただでさえ税金おさめるのに大変なのに、自分とこの食料だって作らないといけないんです。


今の春夏はまだいいんだけど、冬の間は作物とかあんまりないから、その間家族や家畜が食べて行ける食料や飼料の備蓄なんかも別にしないといけないんです。


食料以外の作物なんか育てるの、無理ですよ。


しかもこのところ不作続きで、税金払えそうもないので僕が来たくらいなんで。」


「しかしヤトルが来たら畑の管理は大丈夫なのか?」とサタヴァ。


「その辺は、うちの奥さん、父親や、じいちゃんばあちゃんやらがいますから。


小さい子二人みながら、女性とお年寄、腰が悪い父とでの作業は、大変は大変ですけど、慣れた作業なんでなんとかなります。僕がいなくてもしばらく大丈夫です。


むしろ食いぶちが減る側面もありますから。」


「農家さんは大変だなあ。頭下がるよ。

ところでまた話変わるけど、俺ら用の薬草はとらないの?怪我とかしたら町から離れてるから治療できないじゃん。」


クガヤはすっかり口調がくだけていて、いつのまにか僕から俺というようになっている。


「あと次に行く、町や村の目星、まだつけてないでしょ。」


「それ、両方は同時にできないぞ。自分たち用の薬草を今から探してたら、向かう町や村とやらを見つける時間もかかるから、夜までにそこに行くことができなくなるかもしれない。


野外で寝てもいいんなら別にいいんだが」


一同は、自分たち用の薬草は今は探さず、まずは町か村を見つけようという話になった。


「うーん…町とかには行きたいけど、宿代は高くないとこがいいんだよなあ。」クガヤがぶつぶつ言う。


配布してもらった資金は三名で等分にわけていた。


本来は隊長が全て預かり、宿代食事代も含めて必要に応じて使用するもので、部隊の装備の修理や補充などには多めの金がいるため、余裕を持って資金を渡されているのだが、残った資金を隊長が自分の物にしてしまうケースもよくあった。


サタヴァは隊長に任命されていても資金を我が物にしようという心持ちはなく、最初から等分にわけることにしていた。


誰かが迷子になったりした場合、その誰かが全額資金を持っていたらお手上げになると思ったのだ。


はぐれたらもちろん捜索はするが、合流できるまでの間に、なにかしらお金が必要となる場面が考えられたからだ。


装備品に関してはサタヴァは不足だと思うところはあったが、それを購入できるだけの資金はこの隊には配布されなかったため、装備品のために、別に資金をとっておこうという考えにはならなかった。


ただ、この資金をわけた時点で、クガヤが分けられた金を握りしめてしまって、どうにか安くあげて〜などとブツブツつぶやきだしてしまっていたので、


自分のお金になったつもりでは…


と、なんとなく不安を感じる残り2名だった。


まあ、費用を安くあげようという意見には賛成だった。

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