第41話
エスルデ砦の入口を守る者に、討伐隊の正規軍の一人と思われる者が話しかけている。
「実はハモンド様の命を受けて、帝都より物資や兵士などが来ることになっている。」
たくさん来るなら上の方に話しといてくれと返答されたので、正規軍の者はそれについて言った。
「運び込みで来るだけなので、それほど大人数ではない。また、砦の上の方では、了解済みの話だ。
もしかしたら何回かにわけて来るかもしれない。来たらすぐ砦の中へ入れてくれ。」
上の方で話がついているのなら了解した、と入口の守備は言い、心の中で思った。
…砦の上の方が、帝国の一部の者に相当な金を握らされて、
何やら協力しているという噂があるが、どうやら本当のようだな。本来なら、帝国の人間をこんなに簡単に通したりしないからな。
しかも、ことは帝国の内部抗争に関わるものだという噂も、聞こえて来ていた。
首を突っ込まないほうが良さそうだ。下手すると自分の命が危ないかもわからない。
そやつらが来たら、何も考えずにすぐに通そう…
何かあっても、予め通せと言われてたので通しました、といえば、
こちらはそんなに問題にはならないはずだ。自分の命の方が遥かに大事だ。
彼は思い、交代になる仲間にもそう伝えたのだった。
実はギズモンドを追い落とそうと策謀を巡らせていたのは、何を隠そう、
同じ討伐隊の仲間である大貴族の子息ハモンドであった。
そして今会話した正規軍の男は、ハモンドの腰巾着だった。
彼は、ハリボテの魔王や炎を出す器具に使う材料が足りなくなってきたので、帝国に送るよう、依頼の使いをハモンドに変わって手配したところだった。
さらに、物資が届いた時に、門のところで変に運び込みを止められ、ギズモンド側に中身がさらされることがないよう、すぐ通せとここまで話をしに来ていたのだ。
ちなみにギズモンド側には、この件については、
こちらで滞在するため砦で不足する食糧や武器などの補充を頼んだと言い訳している。
念のため、目眩ましにそれらの物資も一式運んでこいと指示はだしたのだった。
一方、サタヴァは鍛冶屋の住まいの周辺を散策しているうちに、植物の種類がこれまでの地域と違うのに興味をそそられ、思ったより遠くまで来てしまっていた。
薬草は見つけた分は採取したが、きりがなさそうなのでここまでとした。
そろそろ戻らないといけない。
そう思いながら来た道を帰ろうとしている折、ふと木々に隠れるようにしてあった泉が目についた。
毒をもつ植物をじかに触ったことを思い出し、そこで少し体を洗った。
先程の匂いを出す植物の毒性がついたままだと、耐性をもつサタヴァは良くても、周りが具合が悪くなる可能性があるからだ。
ついでに垢も落とした。
鍛冶屋の住まいには入浴設備はあったが、知らない者が勝手に使うのはどうだろうかと思ったためでもある。
簡単に洗い終わった後で、何やら看板が立っているのに気づいた。
看板には「本日休業」とあった。サタヴァが読める字と帝国標準語の併記で記されていた。
サタヴァは泉の周りを見たが、店などはなかった。
店は潰れて、看板だけが残っていたのだろうかと思いながら、皆のいる鍛冶屋の住まいへ急いだ。
その頃、鍛冶屋の住まいでは、ヤトルがぼんやりと起きだし、クガヤはそこの風呂を沸かして入っていた。
風呂は水を汲んで、下から火を燃やして温めるたぐいのものだった。
井戸の近くに大きめの筒が設置されており、
一旦つるべで汲み上げた水を、筒の上の開いている部分に入れ、風呂桶のところまで水が流れて入る方式となっているのだ。
サタヴァが帰って来たら、クガヤが風呂からあがって来たとこで、
勝手に入って大丈夫かとか、何か言いたくなったサタヴァだったが、
あつい風呂に入ると毒が早く抜けるということを思い出し、
ヤトルから先に入らせ、結局自分も入った。
風呂上がりに、周りを見て来てなにかあったかと聞かれ、少しとってきた薬草を出したり、泉があったようだがここから遠いと話した。
「水については、ここのすぐそばの井戸を使えばいいから、そんなところまで行かなくていいんじゃないですかね?」
「泉かあ、誰もいなかったんなら、怪しい仙女の泉とやらじゃなさそうだな。」
一同は食事をした。
猫の明王ルクが出てきて、
サタヴァにクーンクーンと甘えて来たので、干し肉をほらお供えだぞといいながらルクにわけてあげた。
「鳴き方が犬みたいだな、この猫」クガヤがルクに指をかがせながら言う。
「ルクはアォーンと遠吠えも時々してるぞ」
「それ本当に猫なんですかね。この猫、アーシイアさんの仲間で、不思議な力持ってるんですよね。サタヴァさんの従魔ってやつですかね。」ヤトルはそう言いながらも、ルクをなぜなぜしている。
ルクは「サタヴァが従魔」とのべた。
この場合、「ルクは」という主語が
省略された形式とすると、ルクはサタヴァの従魔である、という意味になるが、そういう形式ではない。
ごく単純に、サタヴァの方が従魔、とルクは言っているのだった。
サタヴァはお世話をさせて頂いております、とルクに返事をした。
また、犬猫ではなく明王であるとルクは続いて言ったが、
ルクの話は全てサタヴァしか理解しておらず、
他の二人にはミャーオと鳴いてるようにしか聞こえないらしかった。
「ところで、少し前から、妙な夢を見るんだ。わりと怖い感じなんだ。
これから休むんだろうが、また見るかもわからん。」サタヴァが言った。
「あー、色々あったもんな、夢見も悪くなるさ。
ここに夢のためのお守りあるよ、これを近くに置いて寝たらいいかもしれないぞ?
悪い夢を絡め取ってくれるんだとさ」
クガヤが木枠に網や鳥の羽をはったお守りとやらを探してきて、サタヴァによこした。
「なんか良くここにあるものがわかってるよなあ」
「ガキの頃ここへ来た折に、色んな場所のぞき込んで嗅ぎ回ってたからな。
それにしても、おやじさん、俺のこと覚えててくれたらいいんだけどな。
大人になったからわからなくなったとか、俺を覚えてなかったとかなら、俺ただの空き巣みたいだからな。
なんか盗んだとかいうわけじゃないけどさ。」
サタヴァはそのお守りを近くに置いて休むようにした。
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