第22話

薬草部隊は薬草採取のため山間部にまた入っている。


ここでは以前の場所と少し草の種類が変わってきたので、傷薬のみならず、熱病に効くものや火傷などの処置に効きそうなものも採ることになった。


熱病はさすがに貼るだけというわけにはいかないようだが、一応、簡単に煮て煮汁を服用すればいいだけの、手がかからないものを集めた。


草の種類が変わったので慣れていない方の二人は採取に時間かかった。

もうお昼ごろだというのに、あんまり採れていない。


少し開けた場所でいい風を受けながら休息をとるようにした。


サタヴァとクガヤは背中を地につけて空を見上げ、ヤトルは膝を抱えて座っている。


「煮るだけで薬の効能が出る草だと、楽ですよね。熱病ぽいとき、どんどん使いたい感じですよねえ。」とヤトル。


「そそ、売るにも取り扱い良さげだなあ。」とはクガヤ。


「ところがだ、以前、薬になる草木を大量に連続で服用して、大変な目にあったことがあるんだ。やはり渡す時、一言注意書きは添えとくべきだろうな。」サタヴァがいう。


「当時は、まだこちらもあんまり慣れてなかったこともあって失敗した。薬師でなくても、これなら自分でもできそうだと思ってたんだが…」


サタヴァが言うには、熱っぽく体がだるいときに、平原を移動中に倒れたと。動くのがつらいため食となるものの用意も出来ず、ちょうど熱に効果あるという草木が手元にあったため、それを空きっ腹で連続して何日も服用したところ、おかしくなってしまったらしい。


「おかしいとは?さらに体調が悪くなったのか?」


「いや、そうではなく、やたらに気分が高揚した。確かに熱っぽい苦しい感じは消えたが、なんだか気が大きくなりすぎて、気づいたら立ってふらつきながら歩き、ケラケラと笑ってしまっていた。


気が触れたみたいに見えたかもしれない。


ちょうど通りかかった旅人から異様な目で見られた。こちらも相手に対し妙な振る舞いをしたかもわからん。」


サタヴァが言うには、その旅人から何だ、お前は一体何をしてるのかと問われた時、ついゲラゲラ笑いながら、マオウを喰ってしまったと話をしたと。


それはその時使用した草木の名前だったが、たまたま発音が魔王と同じだった。


ぼんやりしており、自分を客観的に見れる状態ではなかったが、その後、相手がガタガタ震え出したのを思いおこしてみると、どうも自分はひどく怪しい恐ろしげな様子で物申したようだったかもわからないと。


旅人は青ざめて魔王を喰った奴がでた!新しい魔王が産まれたんだ!と叫びながら逃げて行ったらしい。


「なんか軽い感じで話してますけど」ヤトルが言った。「それ、魔王が出た噂と、魔王軍があらわれた噂の元になってませんかね?」


「いや…そんなことは…」


「あったりして。そしてそれが噂の真実で、魔王なんか本当はいなかったりして。」クガヤが草の茎を口で噛みながら言う。

「その方が戦わずにすんで楽でいいさ。みんな報酬とかもらって無事におうちに帰れる。すべてこの世はこともなし、めでたしめでたしで終わる。まあ、俺等は戦わないから関係ないけどさあ。」


その後、ヤトルが魔物と魔王の噂はサタヴァが原因ですよ〜と冗談を悪い顔を作りながら繰り返しいうので、とうとう隊はサタヴァが魔王役で対魔王戦の演習を行うことになった。悪のりもいいところである。


サタヴァがマントをはためかせて「さあ攻撃してこい!」などと言っているところに、ヤトルが槍で突き、サタヴァが槍をかわしながらマントを後ろ側へ払った時に、隙をついてクガヤがそばにきて鍋でポカンとサタヴァの頭をやってしまった。


「あっ当たった!」クガヤは言った。

「サタヴァ、こんな鍋で頭ポコンとやられるようじゃ、隙だらけじゃんか。いざなんか出くわした時に困るだろこれじゃ」


「いや…攻撃くるときは相手の殺気とか気配で判断してるから、これはなんかどうにも」サタヴァは言う。


「それにしても、鍋って、意外に武器になるんだな…」


言いながらサタヴァが一瞬膝をついてしまったので、二人はオイオイ大丈夫かと言いながらかけよった。サタヴァは目が回ったようだった。


「軽くしたつもりなんだけど、なんかとってもいい音がスコーンとしたような」


「これどっか休めるところを探しましょうよ。サタヴァさんを寝かせないと。」

ついでにもう宿のようなものも探そう、夕方までに探さないと野宿になりそうだから、ということになった。


ヤトルとクガヤが、建物らしいものを見つけたといい、一行はそちらへ向かった。

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