第32話

山中の建物で夜を明かしたあと、一行は午前中少しだけ薬草を探した後、例え見つからない場合でも、以降は町村探しに全ての時間をあてることにした。


そろそろ食料の類の残りが心配になってきたのだ。


納品窓口がある無しに関わらず、どこかで食料を調達しないといけなかった。


特にクガヤが肉類のほとんどをシャプナにあげてしまったのも原因だった。一応、糧食はまだあるが、このまま町村によれないと厳しくなる。


「あー来る日も来る日も、野郎三人ばっかで、一日中外で草をぶちぶち採ったり、寝れるとこ探して駆け回ったり。もうなんか嫌になりそう。俺の青春を返してくれや。」とクガヤ。


「どっか町行こうぜ町。景気のいいとこ。人通りのあるとこでうまい飯の食えるとこ。酒ものみたい!綺麗なお姉ちゃんをたくさん見ないと俺の心は癒やされないんだよ!」


「そうは言っても」とヤトルが口を挟む。「そういう飲み屋みたいなとこがあって飲んでいたら、クガヤは飲むだけ飲んじゃって、今頃まだ起きてないだろうし、動けるのが次の日とかになりそうじゃないですかねえ。


ゆうかこれが仕事なんで草採ってるの仕方ないですし、命の危険のない、かなり楽な仕事ですよ。」


サタヴァはなんだか不安そうに遠くを見ている。


「お前はどう思う?息抜きしながら耐えるたちか、ある程度やることを終わらせてから息抜きする派なのか、どっちなんだよう」


クガヤは会話に参加していないサタヴァに声をかけたが、遠方から真上の空に視点を移動させながら何かを見やっているサタヴァを見て不思議そうに言った。「ん?なんか上の空に見えるのか?」


サタヴァは二人を見て叫んだ。「危ない!上空からこちらを狙って来るぞ!二人とも早く、森の中に逃げろ!枝の多い木の下だと敵の攻撃が届かない!」


一瞬、二人はなんのことかわからず固まったが、山の館で危うかった時にサタヴァが助け出してくれたことを瞬間的に思い出した。


サタヴァが敵を見つけたのか?二人は慌てふためきながら、転げるように森の中に入った。


途端に空が曇ったので見上げると、木の上に巨大な鳥が覆いかぶさるように来ていたのだった。


二人は驚愕のあまり目を見開き、巨大な鳥の鉤爪が自分たちの上をかすめるように動く有様を見ていた。


鳥は遠方からこちらに気づいており、獲物として狙いをつけ遥か上空を移動して来ていたのだった。


上空にいるまま、一行の真上まで距離をつめてくるやいなや、翼を畳んで急降下し、獲物をとらえようとしたのだった。


獲物が森の中に入り込んだため、鳥は森へと方向転換した。あくまでも獲物を追おうとしたのだが、密生した樹木が邪魔をして鳥は入り込めなかった。


その鉤爪は二人に届くことはなかったのである。


「サタヴァさんも、は、早くこちらに!」ヤトルが叫んだ。


「そうだよお前何やってんだよ!早く森に入れよ!」


ヒュンと風を切る音がしたかと思うと、キラッと輝くものが鳥の体の周りに見えたと思ったら、鳥がギャアギャア酷い鳴き声で叫びだし、ヤトルとクガヤは耳を塞いだ。

「うああ!」「ヒィッ!」二人は叫んだ。


つと静かな間があり、鳥が叫ぶのをやめたかと思うと、その頭が枝の間からガクッと垂れてきた。鳥の背中側から頭へと血が流れて落ちている。その体は樹木の枝の上にだらりと横たわり引っかかった。


鳥の背中の上のあたりからサタヴァが降りてきて地面の上に立った。「大丈夫だ。こいつは倒した。」


二人は耳を塞いでいた手を外してサタヴァを見上げた。「お前どうやって!」


サタヴァの説明によると、腰にベルトがわりに巻き付けている柔らかい薄い造りの剣を利用したと。


それはほどくと長さが普段使っている剣より長く、先の尖った薄く平べったい形状の剣となるもののため、鳥に向けて鞭のごとく叩きつけたところ、鳥の肉の部分にうまい具合に切りついて引っ掛かった。


そのまま切り込ませておいて動きをとらえた時に鳥が樹木の上にいる状態であったため、樹木にのぼって腰にさしている方の剣で鳥を仕留めたということらしかった。


腰に巻いている剣は、本来は鎧の隙間をかいくぐり相手を殺傷する武器だという話だった。


この場合、鎧ではなく、鳥の羽毛などをかいくぐって肉に切り込んだことになったようだ。


サタヴァが倒してくれて良かった!みんな無事で良かった!


ヤトルとクガヤはホッとして口々に言いながら二人ともバタっと地面に座り込んだ。


「鳥のような空を飛ぶものを倒せたのは幸運だった。俺の剣ではまず相手に届かないからな。


残念ながら、俺は近距離の範囲でしか攻撃できる武器しか持っていない。


また、この巻いている方の剣は、腰に巻く時に自分を切ってしまうので、刃は危なくないように体にふれる部分は潰しておいたものなんだがな。


形状のせいかうまい具合に鳥の肉の部分に刃が切り込んでくれたのだと思う。狙ってできるわけではないので助かった。


今回倒せたのは、向こうから近づいて来てくれたのが大きい。また色々幸運が重なってのことだった。次はないかもしれない。」とサタヴァは言った。


「腰のは普通にベルトだと思ってました」ヤトルが汗をぬぐいながら言った。


「そそ、なんでそもそも剣なんかベルトにしてるんだ?まあ今回はそれで助かったんだけどさあ。」クガヤが腑に落ちないという顔で話す。


「いや…家にあった、ズボンのおさえの紐やベルトとして使えそうなものが、これしか無くて…」サタヴァはモゴモゴ話す。「これほどいて普段から使うと、ズボンが下に下がるんで使えない…」


そう言われてよく見たら、片手でずり落ちそうなズボンを引き上げ引き上げしながら話していた。


「お前、何やっとん」クガヤが半ば呆れながら言った。

「ズボンの紐くらい買えや!」


ヤトルが言い返した。「倒してくれたサタヴァさんにその言い方はないでしょ!クガヤももうわかってるくせに!サタヴァさんズボンの紐が買えないくらい貧乏なんですってば!」


サタヴァが遠い眼差しをしながら固まってしまったので、ヤトルは慌てた。二人は恩人に失礼なことを言いましたと平謝りに謝った。


サタヴァによれば、もう何か近づいてくる気配はないとのことなので、一同は開けた場所に鳥を引きずりながら移動し、肉にするための解体を始めた。


サタヴァが以前気にかけていた遠くにいるものの気配と、シャプナが言っていた大きい鳥というものは、この鳥のことだった。


なお、薬草部隊が預かり知らぬことではあったが、本隊が戦った鳥魔物とは同じ種類のもので、はぐれたものがここまで飛来して来ていたのだ。


サタヴァが魔物ではなく大きい鳥を倒したつもりでいたので、一同もなんかでっかい鳥を倒したとだけ思っていたが、実のところ僅か三名が単独で例の鳥魔物を倒したことになるのである。


同じ場所にいたにもかかわらず、鳥がサタヴァを襲わず、逃げる二人をあくまでも獲物として追ったことについては、特にサタヴァは触れることはなかった。

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