第31話

「おお、我が眷属よ、久しぶりだな」猫はサタヴァを見つめて言った。


黒い長四角はこの猫が作り出したものだった。空間転移はこの猫の力の一つである。


この猫は、全く気まぐれに、本人の都合の良い時にサタヴァの周囲にあらわれるのだ。


猫は頭から尻尾まで黒い体をしており、鼻の下と腹のあたりと手の先だけが白い。

その白い手の先を片方あげ、黒とピンクのまだらな肉球を見せながら猫は挨拶した。


手には透明な丸い玉でできたブレスレットがはまっている。

ブレスレットに刻まれている「智慧」を表す文字がキラリと光った。サタヴァが読める文字だった。


この猫は、智慧を司る導き手の中の一人なのであった。


「ルク」サタヴァは嬉しそうに言った。

「こんなとこで会えるなんて。今まで一体どこに行ってたんだ。」サタヴァは猫を抱き上げた。猫はフンフン鼻を鳴らしながらサタヴァの衣に鼻をつけた。


「なあに、あなた達知り合いなの?」アーシイアが驚いて言った。


「うむ、サタヴァは我が眷属である。従魔契約を結んでいるようなものだ。今シャプナから、こちらのアーシイアの後を追って急いで連れて来てくれと頼まれたので、我が力を使ったのだが、行き先がサタヴァのいる場所で驚いたぞ。」猫は言った。「サタヴァよ、アーシイアとシャプナは我が姪にあたるのだ。よろしくしてやっとくれ。」


そしてクガヤの方を見ながら言った。「そなたとは初対面だの。我が名はルクである。


そなたが知っておる、そこのサタヴァは我が眷属である。


我は姿形は猫の身であるが、そのまま明王となった者である。ルク明王と呼ぶことを許そうぞ。」


だがクガヤにはルクの言葉はわからず、明王と言ってるところがミャーオゥと聞こえただけであった。


「なんか猫がミャーオゥって鳴いてるけど今俺は忙しいの!」


クガヤはシャプナに話しかけた。「シャプナ!」


シャプナは言った。「クガヤ、アーシイアに何かされなかった?」

しかしクガヤがじっと見つめながら話しだすと、シャプナはクガヤから目をそらしてしまったのだった。


「お姉さんは俺に何もしてないよ。それより俺、シャプナに謝らないと。」クガヤはシャプナの手を取った。


「クガヤ謝ること何もない。シャプナ妖魔。人間の女の子と違う。

クガヤ妖魔嫌なら仕方ない。クガヤ大丈夫ならもう行く。」


クガヤはシャプナの手を取ったまま言った。

「君を傷つけるようなことを言って本当に悪かった。妖魔は恐ろしいものだとばかり思っていたんだ。でもシャプナにあって、そうじゃないことがわかった。俺は酷いことを言った。本当にごめんなさい」クガヤは頭を下げた。


「傷つけた後から謝っても君の心は晴れないかもしれない。でも君さえ良ければ、今度こそ友達になりたい。もちろん、今すぐ決めなくていい。」


シャプナはまだ目をそらしているが戸惑っている様子が見てとれる。

アーシイアが嫌そうにフンと鼻をならした。


「それと、お礼を言いたい。君のおかげで俺は命を救われた。シャプナは毒ヘビをあっという間に倒してくれた。さすがに狩りの名人だ。」


シャプナはそれを聞くとクガヤの方を見た。「クガヤ…」


クガヤはさらに言った。「無理に妖力とか強くしなくても、君は狩りで、すでに強くて一人前だよ。」その後、小さい声で「俺も頑張らなくちゃ…」とつぶやいた。


その時、ヤトルが眠そうに目を擦りながらなんか騒がしいと言いながら起きてきてこの様子を見て驚いていたので、サタヴァとアーシイアがこれまでの経緯を説明した。


ヤトルはまだ頭が寝ているのか、大人しく聞くだけだったが、魔法の話になった時に、クガヤが魔導具との関係はどうなっているのかと問うた。


「魔導具は、商売では高く売れるんだ。量が少ないしなかなか流通しないけど、一度販売するだけでもすごい利益がでる。

可能なら、将来出す自分の店とかで、取り扱いを考えたいところだ。

だから、わかるようであれば、魔導具や魔法の関係も教えてほしい。

作っていたりする側での極秘事項で、販売する側には情報まるで渡されないからさあ。」


アーシイアは言った。

「まず前提として、人間達は、魔法以外の何かの仕組みで動いているものがあっても、それと魔法を区別することができません。


例えば、現在の生活での魔導具は、実際は内部で何らかの仕組みがあるもので動いておりますが、


人間は仕組みで動くと思っておらず、魔法で動いていると思って使っているのです。


これは、魔導具を作成しているギルドが、ガッチリ秘密を守って外部に出さないのが理由でもあります。


一方で、かつて魔法のみで動いていた魔導具の類は、動きがおかしくなっているようですが、


動作の原理を魔法と何らかの仕組みと区別することがなかったため、原因が究明できないままとなっております。」


魔導具についてはそのくらいの話で終わった。


シャプナやアーシイアが帰ると言うので、猫が転移のための黒い長方形を作った。


アーシイアは帰る前に、何か袋のようなものをサタヴァに渡した。「こちらがあなたのお力となりますように。」聖なる祈りを捧げてある砂が入っているとのことだった。


アーシイアと猫が転移の長四角の中に入ったところで、シャプナはクガヤをふりかえった。

「クガヤ、私達、またお友達ね。ずっとこれからも。

もし、もしも、またあうことがあったら、その時は、仲良くお話するのね。」


「お、おう、もちろんだとも」クガヤは今後会うことがないかもしれないと思ったのか、感極まったような顔をしている。


シャプナはニコッと、クガヤが見とれたあの笑顔で微笑んだ。そして黒い長四角の中へ入り、消えてしまった。


クガヤはぼんやりとしてしばらくその場から動かなかった。


一行は夜明けまであまり時間がないが、朝になってから出かけるので、もう少しここで休むようにした。


ヤトルは眠かったらしくすぐに寝た。


サタヴァに対し、クガヤは自分の悩みを聞いてほしかった時に一人で先に寝てた件をブツブツ言った。


「俺の悩み聞いてくれたの、ヤトルだけだったじゃんか。


お前はなんか聞きたくもない感じでさっさと先に寝るし。


全く友達甲斐の無いやつだ。


まあしかし、なんだかんだ言っても俺今回の件はしばらく引きずりそう。


早く一人前になるのが、こういうことを一番引きずらずにすむ方法なんだろうな。」


二人はヤトルに続いて休んだ。

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