第20話
三人は風呂が済んだので宿泊の部屋に移動した。
クガヤはサタヴァに女性をくどくコツみたいなのを聞き出そうと熱心で、特に細かいとこまで聞きたがった。
ヤトルは妻子持ちなこともあり、独身二人の話題には口を挟まないほうが平和だと感じており相槌をうつだけになっていた。
時々女性の方からサタヴァに声をかけるという話を聞いて、クガヤは羨みながらあやかりたいあやかりたいと嘆息していた。
しかし話が進むにつれて、出会いがあってもあまり長続きせず、相手がいつの間にか他の人と付き合ってるという話になると、
クガヤは「お前もそういう感じなのか…」と言って頭を垂れてしばらく黙り込んてしまった。
みんなだいぶ飲んでいたので、クガヤが飲みながら突然寝入ったのかと残り二人は一瞬思った時、クガヤは頭を垂れたまんま話しだした。
「実は徴兵に参加しようとした理由、俺は女絡みなんだ。と言っても結果付き合ってたわけじゃなかったんだけど。」クガヤはまた新しく酒をついで一口飲んだ。「まあ、俺は付き合ってると思ってたんだけどな。」
クガヤはその時のことを思い出しながら二人に語った。
クガヤはその日、町に行って家に向かう帰り道だった。
親に頼まれた買い物を忘れたのに気づき、青果店のあたりに戻ったとき、何やら話し声が隣の雑貨屋の近くからきこえたのだ。
「だからイルベさんとは将来の約束をしてますってお父様にお話できたの。今度向こうのご両親とも会うことになっているのよ。」
クガヤは胸がとまるような想いをした。声はクガヤが付き合っている女性の声だった。…何かの間違いだ!としか思えなかった。
そこへ向かいながら、クガヤは足の運びが妙にふわふわした感じになったそうだ。
現実味をまるで欠いており、ゆっくりとしか足を進めることができなかったと。
その後、女性を捕まえて事実確認はしたらしい。
彼女がいうには、クガヤは家を継がないし、すぐ仕事につけるかわからない。仕事につけても最初はなかなか給料はあがらないだろう。その点、申込みしてくれた男性は家がお金持ちで何もかんも条件がいいからだと。
その後なにを話したかよく覚えてないとクガヤはいった。
どうもそのまま結局頼まれた買い物もなんも忘れて家に帰ったらしい。
帰ってなぜ買い物を忘れたかと理由を母親に話してるうちに、その娘と別れた話になった。
母親が言うには、商売は上の兄弟がつぐから、お前はいずれにしろ家を出ないといけない、最初仕事について苦しいところから始めるのは仕方がないんだ、それを相手が嫌なら仕方がないんだよと言われたと。
上の兄弟が仕事をついで自分はどこかの下積みから始める、それはクガヤはよくわかっている話だったが、この時はそれを聞くのがどうにもたまらなかったそうだ。
突然、料理用の鍋を頭にかぶって、このまま徴兵に参加すると言いながら後も見ずに家を出たらしい。
「まあなんだな」クガヤは言った。「徴兵に参加した経験を積むと、一目置かれるような感じになるかと思ったんだ。女性相手にも仕事するにしてもな。
衝動的に来たんだけれど、今ではいい経験になればいいなと思ってる。」
「まあなんでも気になることは心にためて置かないほうがいいと思うぞ、誰かに話したほうがいい。」とサタヴァはいう。
「いろんなものに隙ありとつけこまれることになるからな。」
「いろんな人につけこまれる?それなら話さないほうがいいじゃないですか?」ヤトルが言うと、「いろんな"もの"だ。人ではない。」とサタヴァは言う。
「魔獣や魔物が人の心を乱すと言われているだろう。あれらは心に隙があればそこをついてくる。弱点だからな。
実はそれらだけではなく、普通の獣なんかでも、人の心を乱そうとしてくる場合もある。
まあ、あれらの多くは、自分やまだ小さい子供の命とか縄張りを守ろうとしてやってるだけなんだがな。」
この話には、クガヤとヤトルは、サタヴァ何言ってんだろうという顔になった。
ヤトルは思った。自分が村にいた時は、かわいい奥さんや子供のちょっとした話を周りにできた。でもこの三人の中ではあまりしない方がいいかもしれない。
本当はここでもそういう話をして二人と笑いたいけど、自分だけが幸せな感じになるので、二人のことを思うと話をするのは我慢しようと思った。
サタヴァは思った。二人とも自分の話を聞いて目をパチクリさせている。獣に限らず、草木や、果ては山や鉱物なんかでも、そういったことがおこる話まではとてもできないな、このあたりでやめておこう、と。
クガヤは言った。「ま、自分言い出したのでアレなんだけど、そろそろ寝よう、遅いし。」
三人は休んだ。
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