第34話
薬草部隊は、どうにか小さな村へ辿り着いた。
が、ここにつくまでが大変だった。樹木や岩に隠れた獣道のような小道を通らなければ来れず、来れたのはほとんど偶然だった。
村自体も小さかったが、薬草の納品は受けるようで一行は助かった。
最も、ここは討伐隊のための納品窓口などはなかった。
物資を集めても、納入するのが大変だったせいもあるだろう。
薬草は買い取りの形になった。
買い取りが済んだあと、ここのまとめ役をしているらしい受付の髭の爺さんが、一行について根掘り葉掘り聞いてきた。
いわく、何の目的でどこまで行くかなど。
サタヴァが薬草採取の命を受けていると話した時、その爺は不審そうな目を向けてきた。
実はこの爺は、今でこそこんな辺鄙な場所にいるが、かつては帝国の中央の軍におり、
叩き上げからそこそこ中堅どころの地位にいた人物であった。
しかも当時はギズモンドに個人的に面識があり、そのことを非常に誇りに思っていた。
今ここにいる理由は、体がもうきかぬゆえ、前線を退かせてくれと頼み、
わざとかなり僻地を選んで暮らしていたのだった。
爺は考えた。「薬草採取の部隊をわざわざ設けるだと?なぜそんな無駄なことをするのか。」
最初に考えたのは、軍から逃げてきたんじゃなかろうかという考えだったが、
逃げると報酬などが貰えないし、送り出した側の方にペナルティがつくので、おそらくそれはないだろうと考えを改めた。
しかしこの連中の格好はなんだ…一人を除いて、ほとんど武器らしい武器は持っていないではないか。
一行は地図と目的地を爺に見せて説明していたが、あの装備で行くような場所にも思えない。
爺は非常に怪しんだが、薬草は本物らしく思われたので、みあう金額を支払った。
あまりに小さな村なので、
買い取りの受付と、食事をする場所と、宿泊ができる場所が同じ建物内にあり、しかも狭かった。
一同はできるだけ食糧などの買い込みをした。鳥の肉が手に入ったため、以前より困窮はしてないが、それでもいざというときは困ることを思い知ったからだ。
爺は、一同に剣の刃こぼれの修理はしてないかと聞かれたとき、
ここではそんなことはしておらんと無愛想に返答しながら考えた。
(やれ、なんだかよくわからん連中が来たわい。
さっさとどこかへ行ってほしいが、
妙なこともしていないのに叩き出すわけにもいかんしな…)
一行は久しぶりに食事をし、宿泊をした。
翌日、ヤトルが受付の部屋に古いステータスボードを見つけ、「これこれ!これありましたよ!」と喜んで言った。
「昨日の時点であるの気づいてたけど、
爺さんが色々聞いてきてて、使うとなんか言われそうだったので、口にするのやめてたんだわ俺」とはクガヤ。
「しかしなあ、最近したことと言えば、
マントはためかせてヤトルの攻撃を避ける、くらいのことしか訓練してないような気がする」とサタヴァ。
サタヴァにとっては、妖術使いの獣や鳥魔物を倒したことなどは、普段からごく当たり前にやっていることらしく、
本人はものの数にも入れていないため、こういう言葉が口から出るのだった。
「サタヴァちょっと手かざしてみろよ」と言われ、サタヴァが手をかざしてみたところ…
黒い面に、何やら文字が浮かんでいる。
「お、スキルのとこになんか字が出てるぞ!」
スキル不能とあった文字は消えており、かわりにあった文字は
…
マントはためかせスキル レベル3 ←NEW!
とあった。
サタヴァはさっと画面から手を離した。
「なんだこれ…」
「マントはためかせスキル」クガヤが小さな声でささやく。
「…えーと、た、対魔王戦の演習の効果?
出たんですかね…」
「…これ、俺らの会話をひろって表示してないか?」
最後のはクガヤの発言だが、まるでステータスボードに聞こえるのが怖いかのように、かなり小さい声で言っていた。
「こら貴様ら!何を勝手に触っておる!
その辺のものは許可なく触っていいものじゃないんだぞ!」
雷のような声が響いた。一同が振り返ると、例の爺がこちらを睨んでいた。
「対魔王戦の演習だとお?そう聞こえたぞ?」
「すみません!今のなんでもないです!」
「そうです!僕らなんにもしてないです。話も偶然そう聞こえただけですよ~」
なっ、なっと言った者は周りの仲間に同意を求め、
言われた側は、みんな引きつった笑顔で、そうですとも!とうなづいた。
冷や汗をかきながら、心の中で思っていることは皆同じだった。
(薬草集めるのが仕事なのに、対魔王戦演習とかやって、
遊んでたのがバレたらまずい!)
ただ、爺の方はそうは考えなかった。
爺にとっては、薬草を採取する部隊が存在する方が、嘘らしく思えていたからだ。
「そのステータスボードに何かが出たのか?」
「いや何も…」「ただ触ってしまっただけなんです!」
爺はその様子をじろじろと眺めた。
(こいつら、薬草を集めているというのは見せかけだな?
本来の別の目的が隠されてるな?
…わしがきたときには、ステータスボードに新しいスキルが出てきたような会話をしていたように聞こえた。
それも、対魔王戦演習の効果!
すぐこやつらは隠したがな…
…新たにスキルを授かるほどその演習をしたと言うのか?!こんな連中が!…
…だとすると、魔王に対抗するどんなスキルが身についたかなどの話は、
機密度が高い。
まかり間違って敵へ話が漏れだすと利敵行為となるからな。
だが…この連中、そんなことはとてもできそうにないように見える…)
爺は、ふとこのように考えを巡らせた。
(待てよ…以前ギズモンド様がおっしゃられてた、
自分が自由に動かせる諜報部隊が欲しいとの話、
あれが実を結んでいれば…
…まさか、この連中が果たしてそうなのか?
その部隊は、普段は後方勤務の職務に身をやつすようにする、と言われてたな…
前線に置いてしまうと、目立ったり動けなくなったりするからだと。
ここでは薬草採取がそれにあたるのか?
密かに本隊と別行動をとり、
諜報活動を行う…
時至れば隙を見て敵の本体を叩くため、
自らの命をかけた切り込み隊となる!
そういう連中がいればいいが、と、確か卿はおっしゃられていた)
爺の妄想は続く。
(もしかしてそういう連中なのでは…?
諜報は目立つのは厳禁だ。必ず、一般市民や、無害な者を装おうという。)
クガヤや、ヤトルを見ながら爺は思う。
(この二人は、このわしでも、一般人だと騙される感じだな…
そして、いざとなれば切り込み隊として命をかけて戦う)今度はサタヴァを見ながら思った。
(行先が敵のいるとされる中心だしな…命をかけて戦いを挑むか…)
「ギズモンド様はお元気か」爺は突然聞いた。
本人じきじきに隊を結成し、任務を頂いたと話を聞き、爺は(もう間違いない!)と自らの考えを信じた。
「そう来ると、」爺は向き直って話した。「お前らに出すものがあるんだ。」爺は意味ありげに続けた。
「ついに、あれを出す時が来たか…」爺はその場から去って何処かへ消えた。
「あれってなんだろう?」ヤトルが言う。
「爺さん、なんかすっごい値打ちもんでもくれるんじゃねえか?俺らに…」クガヤが期待たっぷりに言う。
「…今の会話の流れでか?ギズモンド卿とじかに話してた件は驚いてたようだが、その他の会話にそんな要素あるか?」サタヴァが言う。
一同は爺が帰ってくるまでしきりに首をひねった。
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