第4話
「ここにいたのかレベラ、むかえに来たんだぞ。お前がいないと酒が始められんからな」ギズモンドは口を開いた。
レベラはすぐさまギズモンドに自分の伝えたい要件について耳打ちを始めた。重大な話ではあるが、部屋や場所をあらためて、と言う余裕はなかった。
レベラは出立する何日か前に、帝都側の情報筋とのやり取りのため、予め伝書鳥を飛ばしておいており、先程その返事が届いたところだった。
そこにはこうあった。
ハズモデの徴兵は集まらないことを見越してのことで、ことが終わり次第それを理由としてハズモデを武力で攻めるつもりだと。
すでに帝都側では帝国領土としての扱いのため、戦をしかけるとしてではなく、徴兵の知らせにもなんの返答もできないほど管理統制に不備のある領土を直接統治するためという名目となると。
また、ギズモンド側については、やはり徴兵地域から兵が来ないことについての管理責任を問うつもりであると。
降格するか何らかの懲罰的なことを負わせるかについては、賛否両論がありまだ未定だと。
これらのことをレベラがギズモンドに話した後、二人は何やら部屋にいる者たちをチラチラ見ながら、小声で話をしているようだった。
やがてギズモンドがゆっくりと黒髪の青年にむかいあった。
「その方が報告にある山の民であるか。山の民らは我が帝国領土に居住しているにも関わらず、納税や兵役などという義務を果たしてはおらぬ。
ただ、一方で帝国における権利を享受していないことは明白である。
ここに、貴殿をハズモデの地における人民として認め、帝国人民としてのあらゆる権利を享受できるようにするものとする。
そして徴兵地域の兵役についていただく。これは義務を果たすということである。
またこれにより、これまでおさめていない税やその他の義務については不問としよう。」
どこにも無登録な人間をハズモデの地の人民とし、さらに兵役につかせることにより、ハズモデが徴兵に参加した体を取らせることができる。
これによりギズモンド側はこの件で責任を追及されることはなくなるであろう。
上の方が予定していた、徴兵に応じなかったことを口実に戦をしかけることはできなくなるかもしれないが、こちら側に何も連絡もないままこちらの不都合になる予定までねじ込んで決められていた話なので、そんなことはどうなろうと構わない。
一方、人民の移動などの管理手続きについては、戦時においてはそれぞれの領主というより、ギズモンドが領主の上にいる形とされているため、これは強引だが合法的なやり方となっている。
「あのーすみません」待機させられていたヒョロっとした青年がテーブルから立ち上がり、口を挟んだ。
「税を免税って僕のとこもお願いしたいんですけど。」
本来であれば、許しを得ずに直接農夫が卿のような立場の者に話しかける無礼は注意せねばならないところだ。だが教育が田舎の農民にはほぼなされていないため、おそらくそれらのことをよく知らないのだろうと思われた。
レベラは咎めることはせず口を開いた。
「君は徴兵地からは違う参加とはなるが、この者を隊長としてあおぎ、共にゆくのなら税については優遇措置をとれるようにしよう。」
「ありがとうございます!」
実際は優遇措置といっても、一度普通にそこの管轄の領主に税は取られるだろう、とレベラは思う。ただ、先にこの者にそれに値する額を渡すことで対処しよう。その程度の額ならこちらの予算内で手配できる。
「ちょっと待ってくれ。俺は了解していない。」黒髪の青年がさえぎった。
「人民として認める?兵役?勝手に話をすすめないでもらおう。俺は自分が好きな場所に住むし、やりたいことをやるつもりだ。義務とか権利とか両方とも求めていない。」
ギズモンドとレベラはちらっと互いに目配せした。この反応は予想していたことだった。
レベラが口を開いた。
「そのことは、今回の件が終わったあとは好きにしてもらって構わないですよ。このままハズモデの人民として生きるのもよし、山の民に戻るのもよし。いま決められなくても終わってから決めるでもいいです。」
一度ハズモデの人民が徴兵に参加したことが記録に残ることが重要なのである。例え、それがたったの一人だけだったとしても、目的は達せられるのである。
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