16:綺麗な花火
花火が上がる川辺のマップで剣が舞い、槍が駆けて、魔法が落ちる。そんなネットゲーム上の世界で繰り広げられる派手な戦闘を画面越しに見ている私は、自分の操作するキャラクターを見て自嘲気味に呟く。
「はぁ……この子は本当に悲しいほど私だね」
夏祭りイベントの最期に現れた蝉型のボスモンスター《セミボス》との戦闘に勤しむプレイヤーたちを私の操作するプレイヤーキャラ《ハナ》も同じように遠巻きに見ていた。
『初めまして! もしよければうちのパーティーに入ってもらえませんか?』
突然、
「え、えっと私?」
『そうですよ。私はハナさんをパーチーにお誘いしたいのです』
「パーチーなんだ」
『それ、オープンチャットになってるので切り替えてもらった方がいいかもです。私ってわからないにしても誤字をいじられるのは恥ずかしいので!』
初めてプレイするネットゲームということで、個人情報には気を付けろという両親の教えを忠実に守って親しい間柄のプレイヤーを作らなかった私は、初めての使う囁きという機能にあたふたしながらもなんとか謝って受け答えをする。
『で、ですね。ヒーラーを探していまして、ちょうどハナさんを見かけたので声をかけさせていただきました』
『確かに私はヒーラーですけどまだ初心者なので……』
『私たちも初心者ですよー。そのまま突っ込んでもいいんですけど、どうせならちゃんとしたパーティープレイで遊びたいなと思いまして、ハナさんに是非きて欲しいのです』
要約すると強敵との戦いに参加できないプレイヤーたちのおままごとプレイ、恐らくダメージも通らないような攻撃しかできない初心者たちの意味のない戦闘参加に参加しないかということだった。
『だってお祭りですよ? 意味なんかそれで充分じゃないですか!』
煮え切らない私に苺さんは訴えかける。―――こんなにも必死に私を誘うのは、お祭りに興味のないプレイヤーが一人で遠巻きに見ているはずがない。そういう理由で私を誘ってくれているのだとようやくわかった。
『……そうですね。私もいつか参加できたらと思います』
『いつかと言わずに今でいいじゃないですか! きっとそれも思い出になりますよ!』
ピコンとウインドウが開いてパーティーの誘いが届いた。
「今日は夏祭りですし、一緒に遊びましょう! 花火のようにパーッと私たちは負けて死体になるかもしれないけど、絶対楽しいですよ!」
苺さんがオープンチャットで叫ぶ。踊りのエモーションを連打してキャラクターも派手に動き回り、私のように傍観者として戦闘を眺めていた周辺のプレイヤーもなんだなんだと騒めき出した。
『……オープンチャットは恥ずかしいんじゃなかったんですか?』
「気が変わりました。もうハナさんだけじゃなくて、ここにいるみんなとパーティーとかそういうの抜きで楽しみたいと私は思います」
パーティーへの招待は無効になりました。パーティーが解散されました。そんなメッセージが流れて私は目を見開いた。
「え? あれ? パーティーは?」
「だから言ったじゃないですかー。もうそういうまどろっこしいのは抜きで、みんなで遊ぶんだって。―――じゃあ、みんな。突撃いいいぃぃぃーーー!」
装備も整っていない見るからに初心者の集団がボスモンスターへ挑んでどんどんと死んでいく。正直言ってバカだなと思った。
「―――私も同じか。どうせ支援してもしなくても結果が同じなら……」
そして、私も馬鹿に付き合うことにした。苺さんの行動で周りがみんな役に立たなくてもボスバトルに参加したいと思って行動に移していったから。きっと私も同調圧力に感化されたんだと思った。
「どう? 楽しかったでしょ!」
「……楽しかった」
死に様を花火なんて表現する人もいるけど、私たちは小さく咲いた線香花火のように綺麗にひっそりと、けれど輝いて死んでいけたと思った。
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夏祭りが終わった後には空欄だったフレンド枠にいくつかの名前が並んでいた。それは一緒に死体となったその時に初めて会った人たちの名前で《苺》という名前もそこに刻まれていた。
『ハナ、今から素材集め行くけど一緒にどう?』
あの頃よりも砕けたメッセージで囁きが届く。ネットは怖いこともあるかもしれないけど、それでも楽しいことがいっぱい満ちているんだと教えてくれた友達に感謝し―――。
『行きます。どこで落ち合いますか?』
私は今日もネットゲームを友達と遊んでいる。
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