2:世界で一番儚い花は

『一番儚い花は、桜じゃないと私は思うの』


 そう言ったのは、誰だっただろう。


 昔から不思議に思っていた。

 地元の村の花火大会で、寄付名簿の中にある空欄。

 いつも何故か、途中だけ一つ飛ばしたようにぽっかり空いている名簿の1行。

 あれは……空欄じゃなかったんだ。


 今年、その名簿の中から消えていたのは僕の名前だった。


『桜の花の下には、死体が埋まっているんだって。でも私は、樹の下に埋められるよりお花になりたいな』


 そう言ったのは、誰だったっけ。

 あの名簿の空欄にあった筈の、あの子の名前はなんだっけ。


 そんなことをぼんやりと考えている間に、僕の体はいつも花火が上がる河川敷に運ばれていた。


『この村で上がる花火は、毎年一つだけ。名簿の中から神に選ばれた人が、毎年お花になるのよ』


 僕も花になるんだ。

 そう思った。


 今年も村に、たった一つの花火が上がる。


 夜空に一瞬だけ咲く大輪の花火。

 その花火になる為に、今年神様に選ばれたのは、僕だった。


 ああ、花になればあの子に会えるかな。

 あの子の名前も、思い出せるかな。

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