14:送り華

『ねぇ、桜や紫陽花の花の下に死体が埋まっているなら、花火の下には何があると思う?』

『突然なんだよ、急に』


幼馴染に俺はぶっきらぼうに言葉を返した。

だが、彼女はここにはいない。

さっきまで、俺の惰眠を見守ってくれていたはずの、騒がしいスマホに俺は返事した。


『で、花火の下には何があると思う?』

『花火の下?あの筒みたいなやつじゃないのか?』

『ぶっぶ~、夢がないな~』


口で不正解音を鳴らす姿が、目に浮かぶ。


『降参だ・・・答えはなんなんだ?』

『答えは、花火のおじさんです。』

『お前の方が、夢がないじゃないか!』


まさかの回答に俺は返事をする。まさに夢も希望もない事を言うやつだ。


『まあ聞けって兄弟!!桜は人の死体から魂とか吸って綺麗に咲くなら、花火は何を吸って綺麗に咲くか私は考えたんだ。』

『・・・・・・』


空欄の返答、ここで適当に言葉を返すと面倒になるのを知っているが、無反応でも怒られる。

その為生まれた、二人の間の返答だ。


『私は、それをおっさんだと思ったんだよ!!』

『現状まだ何もわからんが聞こうじゃないか』


目に見えないはずの彼女がドヤ顔しているのが見えてくるようだ。


『いいかい?おっさんはこの花火の為に汗水流して一個一個花火を作ったはずだ!!

 それこそ、火気厳禁の危ない中、一生懸命な!!』

『・・・・・・』

『それこそ、一瞬の花の為に命を賭して作っているんだ。その血と汗の結晶が花火だと思うのだよ!!』

『・・・・・・』

『つまり、花火にはおっさんが居るんだよ』

『うん、なんとなく言いたいこと話分かるが帰結するとこがキレイじゃないな。』


ついつい、僕は突っ込んだ。


『何言ってるんだい?死体だってキレイじゃないさ!!』

『・・・つまり、何が言いたいんだ?』

『私はね、花火職人になろうと思うんだ!!』


突拍子もない言葉に俺は茫然とした。


『花火職人だよ!!花火職人!!』

『なんで急に?』

『実は昔からなりたくて、こっそり工房にお邪魔してるんだよ!!!』


幼馴染の想像以上の行動力には驚かされてばかりだ。


『頭領にも気に入られてね!!』

『そうか・・・まあ、頑張れよ!!』

『ああ!!』


僕は、都会の大学に、彼女は地元の花火職人にそれぞれの道へ進んだ。

毎年、夏に彼女の花火工房の作品を見るのが僕の楽しみになっていった。

僕も社会人になり、彼女も花火玉を作って打ち上げる許可を得たある夏。

彼女は、柄にもなく緊張した面持ちだった。


『私の血と汗をたっぷり吸ったとっておき見せてやるぜ!!』


彼女の花火は、あまりに低い位置で大輪の花を咲かせ・・・

彼女からの連絡がもう来ることは無かった。


「あち~・・・」


その事件から仕事に身が入らず都会から地元に帰り実家でダラダラと過ごしていた。


『・・・・・・』


僕は、今年も彼女に空欄のメッセージを送る。

今年の夏まつりに、彼女が帰ってくる気がして。

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