28:気付くのが遅い

(私って、アイツの事好きなんじゃなかったのかな?)

 ぽっかりと私の心に穴が開いたような気がした。

 別に言葉にすれば大した事じゃない。

 毎年一緒に花火を見に行っていた幼馴染の男に、今年は他の相手と一緒に行くから、どうしても私とは行けないと言われてしまっただけ。

(ずっとずっと一緒に居たいと思ってて、それが好きなんだって思っていたのにな)

 アイツには私より大事な人が居て、私は選ばれなかったのに。

 その事に意外とショックがなく、平然と受け入れる事が出来ちゃって。

 私ってアイツの事、そんなに好きじゃなかったのかなって、変な部分でショックを受けていた。

(それじゃあ私ってアイツの事、どう思ってたんだろう……)

 今の私の心を示す単語を空欄に入れなさい。

 そんな問題でも作って、誰かに代わりに答えてほしかった。

(だって今までアイツに感じてた気持ちが恋じゃないなら、私は一生、恋人なんて出来そうにない……)

 一緒に居てアイツより楽しい相手は居なかった。

 アイツが泣いていると私も苦しくて、一緒に泣いたり、誰がコイツを泣かしたんだって怒りが止められなくて。

(アイツが居ない今、まるで死体にでもなってしまったみたいに何も感じない……)

 これだけ私の中でアイツの事が大きくてどうしようもないのに。

 何で私はアイツが他の女を選んだのに、よかったねとしか思えなかったんだろう。

(アイツ以上に私の中で大きくなれる人って出来るのかな?)

 そんな事を私が思った時。

 爆発音が響いた。

 それで特に花火を見る気なんてなかったのに。

 親に勧められるままに浴衣を着て、外をブラ付いていた私は我に返って。

 目の前に焼き付いた光景に心臓が止まるかと思った。

「あっ……」

 花火で一瞬照らされただけの影絵のような姿。

 顔なんてほとんど見えない。

 それでも何年もアイツを見続けた私には、目の前に居るのがアイツだって一瞬で解って。

 その隣に私以外の相手が居たのを確認して、初めて理解した。

(い、いやっ!)

 ただ自覚してなかっただけだった。

 結局はアイツの居場所は、私の横以外にないだなんて無自覚に甘えた事を考えて。

 自分が選ばれなかったなんて認めたくなくて、目を逸らして傷付かないようにしていただけで。

「私以外の女をアンタの隣に立たせないでよ!」

 人目なんて気にせずアイツの所へ走り出してしまう自分自身を止められないくらいに。

 どうしようもないくらいにコイツの事が好きだったんだって気付いてしまった。

 けれど――

 本当に気付かないといけない事は、もっと別にあった。

「いや、その、気持ちは嬉しいんだけどさ。婆ちゃんにまで嫉妬すんなよ……」

 私の好きだった男の隣に居たのは同学年の可愛い女の子でもなければ、綺麗な年上のお姉さんでもなくて。

 私もよく知っている、コイツのお婆さんだった。

「ちゃんと言っただろ。その、婆ちゃんもうどれだけ生きていられるか解からないからさ。爺ちゃんとの思い出懐かしみたいから、俺と二人で祭りに行きたいって言ってるって……」

(言ってたんでしょうね……)

 そんな話も聞こえなくなるくらい、コイツが私を選ばなかったのがショックで。

 ずっとぼんやりしていたかと思うと恥ずかしくて。

(ああ、でもよかった。ちゃんと私、コイツの事好きだったんだ……)

 それ以上に安心した私は。

 二人が驚いている事も気にせず、地面にへたり込んでしまったのだった。

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