10:紅く咲くハナ
紅く咲くハナ
パァンと乾いた音がして、アタシの胸に紅い花が咲いた。
その音はまるで、昔アイツと見た王都の花火みたいだなと思い出したのは、何かの知らせだったのだろうか。
勢いのまま仰向けに倒れ込めば、目に痛い程の赤い夕焼け空が広がっていて、何だかとても切なくなった。
トクトクと穿たれた穴から溢れ出る血潮の感触に、自分のオワリを感じる。
さくさくと下草を踏みながら、黒いブーツが近づいてきた。
そして、こちらを覗き込んでくるその顔は、非常に見覚えのあるもので。と言うかさっき思い出したアイツで。
「かはっ……アンタが……アタシを……コロスのか……?」
胸から込み上げる寂寥を血反吐と共に吐き出す。
あの頃とは随分変わってしまった。
……アタシも……アンタも。
目の前の男と暮らしていた孤児院の思い出は既に遠い。
今のこの状況を見る限り、そこから分たれた道は随分と正反対に進んだのだろう。
アタシは金さえ積めば誰でも
アイツの制服は、王家の番犬と称される軍隊の精鋭部隊の物だ。
だからこそ、この王都の外れに広がる草原での邂逅になったのだろう。
……
「クッ……アハ……アハハ……かはっ」
あぁ、でも……。
彼の手に掛かって死ねるなら……。
イイオワリなのかもしれない。
それだけアタシは手を汚してきたんだから。
どっかでのたれ死んでもおかしくない生き方をしてきたんだから。
だから……。
淡いハツコイとか言うものの相手のコイツに終わらせてもらえるなら。
「……お前じゃなきゃ……いいなと思ってたんだがな」
アイツの呟きが聞こえる。
最後に会った時より低くなって、大人になった声で落とされるソレが、離れていた年月を示しているようで、何だか切ない。
「残念だ……」
あぁ、そうだね。
アタシもザンネンだ。
何処かで道を間違えないでいたら、コイツと笑い合える日なんてものもあったかもしれないのに。
だけど、もう、おしまい。
感覚のなくなった体を、暗闇に呑み込まれそうな意識を、何とか繋ぎ止めて、言葉を紡ぐ。
「 」
聞こえたかな? 聞こえてたらいいなぁ。
そう思ったのを最期にアタシは……。
草原を駆ける風が、一人の女の死体を柔らかく撫でていく。
それに背を向けて、男は歩き出す。
「……バイバイ」
男の呟きは、風に攫われて消えていった。
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