23:『6、印象に残った花火はありますか?』
僕は今、とても困っている。
学校の宿題で、アンケートを書かなければならないからだ。
別に難しい質問があるわけじゃない。
すごく長いアンケートでもない。
全部で六つの質問に答えるだけの、簡単なものだ。
アンケートの内容は、花火大会について。
実は、毎年同じアンケートが宿題で出されている。
僕の住む地域で行われる花火大会は全国的にも有名で、遠くからも見に来る人が大勢いるほど大きな花火大会だ。
地元に住んでいる僕らは見ていて当たり前だよね、と言わんばかりのアンケートに、今回ばかりはむかついてしまう。
……まぁ、見に行ったけど。
いつもだったらこんな宿題だけでラッキーって思うし、さらさらっと書き終わって今頃は友達と遊びに行っているところなんだけれど。
今年の花火大会は特別すぎたから、どうしても最後の質問に引っかかってしまう。
『6、印象に残った花火はありますか?』
別に難しくはないでしょ?
特にないとか、全部すごかったとか書けばいい。
実際、去年まではそう書いていた。
心にもないことを書いていた。
六年生なんだからもう少し捻って、スターマインがすごかったとか、やっぱり大きな花火が迫力があったとか、いくらでも書くことはできる。
でも、今年は────
どーん、とお腹に響く大きな音とともに僕は見たんだ。
人間が、花火になる瞬間を。
最初に見たのは、知らないお兄さんが、浴衣で綺麗に着飾ったお姉さんの首をぎゅっと握っている姿だった。
時々、空に輝く花火が暗闇にいる二人を照らしていて、なんだか不思議な光景だった。
そこは僕の秘密の場所で。
花火はよく見えるけれど、大人の胸辺りまで雑草が伸びている空き地だから誰も来ないはずだったんだ。
僕にとっては全身が隠れてしまうほどの雑草だから、お兄さんもお姉さんも僕には気づかなかったみたい。
しばらくして、お兄さんは慌てたようにその場から走り去った。
お姉さんがいなかったから、僕はそっと近寄った。
お姉さんは地面に倒れたままピクリとも動かなかった。
綺麗な浴衣が土で汚れていたから、なんだかかわいそうだと思って、僕はお姉さんを一生懸命転がした。
近くに川があるから、そこまで運ぼうって。
汗が流れて、僕の手まで汚れたけど、綺麗にしてあげたい一心だった。
川にお姉さんをどぼんと落とした。
これで少しは綺麗になるかなって思ったら安心したし、良いことをした気分。
ちょうどその時に、空に大きな花火が上がって。
光に照らされて、川の水面に広がったお姉さんの長い髪がまぁるい円を描いているのが見えた。
お姉さんは、花火だったのかもしれない。
だからね? 今年、僕が印象に残った花火はお姉さんなんだ。
でも、わかってるよ。
さすがにそれをアンケートには書けないってこと。
かといって、これまでのように適当に答えるのも嫌だった。
おかげでアンケートの六番目の質問の答えは、いつまでたっても空欄のままなんだ。
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