形だけの主催の、感想の間(中編)8~19

 前編は前置きが長かったから、そういうの抜きにしてサクサク感想書いていこう!!

 時間は有限ですからね!! どうでもいい情報で心の隙間をそっと埋めるような令和のスキマ産業は廃れなければならんわけです。時間は奪うものじゃない。奪い合えば足りず、分け合えば余ると相田みつをも言ってます。じゃから、みんなオラに時間を分けてくれ。ダメ? あ、ダメすか、そうすか。


 以上、茶番。

 以下、感想!!



 ○ ○ ○



8.その殺し屋は繰り返しの日々を終え、

作者名:環月紅人


 みんな、こういうの好きでしょ。うん、ミツイも好き。

 おしゃれポイント10000点あげます。どこにって、タイトルに。読点で終わるの、珍しいですよね。最初「誤字かな?」とか思うじゃないですか。違うんですよ。違うんですよみなさま。読んで。読んでくれたらわかるから。うん。


 短期記憶しか保てない殺し屋が、自由のために最後の依頼を果たすお話。

 シンプルなストーリーラインながら、欲しい展開というか、読者が期待しているものを丁寧にお出ししてくれていましたね!


 で、最後の殺しの依頼を果たして自由になった男。

 リストにのこった空欄に「好きにしろ」の文字。そう、まだ続くんですよ!!! まだ!! 続くんですよ男の人生は! 穏やかに!! それゆえの読点!! 句点ではないんですよ男の人生は!!


 はー、熱くなりすぎた。

 気を取り直して批評いきましょう。

 『花火』と『死体』を同時に転換点に使っているのがいいと思いました。相乗効果で話の山を強く印象付けることができていたと思います。オチの要素としての『空欄』も、空欄を埋めることで物語を帰結させるという働きをしていたので、まとまりのある作品になっていたと思いました。



 〇 〇 〇



9.ヘラクレス オオカブト

作者名:とーふ


 見せたい部分がはっきりしてるな、ってのが一番の印象なんですよね。この作品に関しては。えっとね、話としては、彼氏を殺してしまった彼女が自分も後追いをする筋なんですよね。

 冒頭に死体が転がってるところから始まって、彼氏を殺してしまったことが明かされるんですが、死体に興味がないんですよ描写として。それよりも、タバコが吸えないことへの苛立ちの方が強くて。あと、心情が錯乱気味に変わってたりと、そういうところから考えると、彼女の機微を中心に描かれてるんだろうなと。


 結局、彼氏が別れを切り出した理由も分からずじまいで、その分彼女のやりきれなさが浮き彫りになるというか。そこが良くて。だから逆に別れの理由が判明しちゃうとダメなんですよね。どっちかに責を負わせないといけなくなるから。それはまた違う話になっちゃいますからね。


 さて……タイトルね。

 タイトルの読解、ものすごく悩みましたとも。図書館で昆虫図鑑とかギリシャ神話とか片っ端から調べたので、ミツイ今あれですよ。ヘラクレスオオカブトとヘラクレス(英雄)についてかなり詳しくなりましたよ!!

 あと考えたのは、タバコの銘柄にヘラクレスってのがあるんじゃないかとか、刺したナイフをヘラクレスオオカブトに見立ててるんじゃないかとかaikoの『カブトムシ』をオマージュしてるんじゃないかとかetc……

 ……三日三晩悩みましたが!!! なんの成果も!!! 得られませんでした!!!


 ま、そんなこともあらァな!

 気を取り直して批評のお時間だよ。

 お題の使い方のタイプとしては『空欄』『花火』『死体』を構成的なポイントで使うのではなくて印象的な要素として混ぜ込んであるものでしたね。お題の親和性を活かせていたと感じました。最後にまとめてすべてのお題を並べるのもよかったと思います。



 〇 〇 〇



10.紅く咲くハナ

作者名:ニノハラ リョウ


 900字ちょっとの短い中で、対比した関係性を軸にしたきれいな構成でした!

 かつて同じ場所で育った二人が正反対の立場にいて、哀しさをのこしつつも期待通りのラストに持っていってあった気がします!!


 短いのにちゃんと感情に納得できるのは、細かな描写がちゃんとつながってるからだと思うんですよね!! ワザマエ。

 流れるように批評にもつながるんですけど、血しぶきから『花火』を連想させて、それをそのまま思い出とつなげて、思い出から連想させるように殺す相手につなげて二人の背景を語るこの順番が巧くて。セットアップとしての『花火』が見事だったなと。


 山のシーンで『空欄』をそのまま台詞の空白と解釈して使うのもよかったですね。最後の『死体』も冒頭からの流れでスムーズに出ていたので、オチというよりは帰結としての『死体』がしっくりくる、まとまりのある話でした。



 〇 〇 〇



11.恋わずらい

作者名:小欅サムエ


 急転直下スタイルですね!!! 感情の流れ的にも!! 物理的に転がっていく死体的にも!!!

 最初、告白してもらったって言うとったやん!!! それも盲目的な恋のなせるわざやと!! そういうアレですか!!!


 ゾッとさせるための演出がばっちり決まってましたね!!

 溜めて溜めての演出が良かったです。手足を捥ぐホラー演出も込みで!


 お題の使い方的な面での批評としてはですね。

 転換点で『花火』と『死体』を同時に使ってインパクトを演出してありました。

 そこまでの溜めがあったのでこれが効果的だったと思います。『空欄』については婚姻届での使用となっていて、オチとして機能しているものの、少し話の流れからして突拍子なアイテムに感じられました。いや結びの一文とか大好きですけどね!? あくまでお題のマッチング具合だけの話でござんす。



 〇 〇 〇



12.クレバスアキラ最後の配信

作者名:筋肉痛


 ほんまアキラこいつwww おまえwww 手放しで笑わせていただきました!! いやオチでどかんと笑えるのは確かにそうなんですけど、それだけじゃなくてそこまででも畳み掛けるようにギャグが入ってるので、ジャブからのストレート、みたいな感じで読者が気持ちよく笑えるようになっていたと思います!


 で、読者の誘導が巧くてですね。

 お題の使い方とも関わってくるお話なのでシームレスに批評に移るんですけど。

 『空欄』の解釈をうまく使って、舞台設定としてベースに使ってあります。ナイ隙間ですね! 『花火』を起点に物語がはじまって、オチに『死体』があるのですが、ココです。このオチの前に誘導が効いてて、男女の修羅場のとこで「あ、ここで死体が出るんだな」と思わされるんですよ。そこをフリに使ってオチで出してるのが巧いポイントだと思いました。

 起点である『花火』も、オチを見てからだとグッと解像度が上がりますね。裏稼業のアキラが、花火を見て突発的に配信をはじめたってことは、つまり花火がなければ捕まらなかったし、物語はそもそも始まらなかったので、キャラの行動原理をうまく表現できていたと思います。

 技術点がとても高い作品でした。いい仕事してますねぇ(なんでも鑑定団風に)



 ◯ ◯ ◯



13.空の欄

作者名:真摯夜紳士


 静かな入りからの、人情味のあるしっとりとしたエンドでしたね!! 亡くなった父上も、草葉の陰で泣いているに違いありません。

 話の筋としては、不仲だった父が亡くなり、その遺品整理をする中で見つけたのは、父なりの家族への想いだった。花火職人であった父の遺したそれを打ち上げることで、父の真意を理解する、と。

 教科書コースですねこれはもう。花火を使って夜空を"つくる"という発想も楽しかったです。主人公が父と子のスタートラインに立ったところで終わるのも、その後の余白に繋がってていいですね。父と対話できる準備ができた時にもう父はいないんですよ。それでも少しずつ父を知っていくのがこれからのフェーズなわけです。はい教科書。


 お題の使い方批評にまいりますけれども!!

 拡大解釈した『死体』を作ることで物語の起点にして、オチに『花火』『空欄』を同時使用となってまして。この空欄の使い方が独創的で良いですね。物質的な空欄を夜空に浮かべることで夜空をつくる、と表現されているのもおしゃれだと思います。

 さらに、明言こそされてはいないものの、主人公と父の間にある心の空白を埋めていくような下地もあり、お題から連想されるストーリーとしてうまく整っていたと感じました。



 ○ ○ ○



 14.送り華

 作者名:DuG


 ああああぁぁぁ……! 甘酸っぱ切ない……!! 確かに存在した青春だったものの残り火のようなラストが印象的でした!!!

 メッセージでのやりとりだからこそできる空欄での返答、というギミックによって、二人だけの特別な関係性が描写されているのもまたいいんですよ!! それがしっかりラストに効いているので、物語として印象の強いラストになっているのだと思います。


 悲劇をあっさりと描写することで、主人公にとっての非現実感を感じることもできて、それがあてどなく今年も空欄のメッセージを送る理由づけとしてしっくりきていました。


 お題の使い方の面で見た批評として、『花火』は物語の進行の下敷きに。そして『空欄』をオチとして使うために、前段で仕掛けを整えた構成はお題を強く印象付けることができるので良かったと思います。

 起点で会話のフックとして持ち出した『死体』を、転換点での伏線にしてあるので、幼馴染の事故に浮いた印象もなかった点も良い点だったと思います。



 ○ ○ ○



 15.夏の夜空とモラトリアム

 作者名:まさかミケ猫


 分かるっす。ミツイには分かるっすよ。

 今回のお題から連想されるイメージを逆手にとって注目度の高い作品を作る腹づもりだったっすね。ミツイには分かるっす。


 『死体』の持つイメージを序段で打ち消してからのスタートだったので、とても爽やかな――爽やかか? どっちかというとハートフルだな? な物語に仕上がってましたね!!

 キャラクタをしっかり描いているので、敷いてある空欄や花火に納得感も出ようというものです。


 起点に『死体』(ゾンビのようでゾンビでないそうめんで生き返るという概念のそれ)をコミカルに置いてのスタートで、構成面で見ると『空欄』や『花火』が機能として使われているわけではないんですよね。ですが、短編として構造を捉えた時に日常を切り取った形式なので、そこに激しい事件や焦げ付くような感情の変化もなくて、ただモラトリアムの中でそこはかとなく登場人物の心情に変化が見える。間違いなく短編としての物語がそこにはあるんですね。『花火』の持つはかなさも、本編の内容と照らし合わせた表現できれいにまとまってますしおすし。

 流れるように批評に入ってましたが、狭義の三題噺で捉えると物足りないと感じる点はあれど、別にそんなルールでやりましょうなんて言ってないので、オモシロければ正義です。そしてこの短編はオモシロかったのです!!



 ○ ○ ○



 16.綺麗な花火

 作者名:たっきゅん


 最初と最後で、見事にキャラクタの心情の対比が描かれてて、そこにいたるまでの道筋がしっかりと書かれた良い短編だったと思います!!

 MMORPGを舞台に、世界に馴染めない主人公がイベントを通して友情を手に入れる話でした。めちゃくちゃ共感できますよね!! ソロのなんとも言えない疎外感も、オンライン特有の盛り上がりも。ゲームの中でしか繋がっていないからこそのよさ、ってのがあると思うんですよ個人的には。画面の向こうにいるのが見ず知らずの相手だからこそ、こちらから一歩を踏み出すハードルが低いというか。レイドバトルで生まれるそこはかとない絆みたいなものとか。しっかり表現されていたと思います! ブラボー。


 お題の使い方としては、感情の盛り上がる山のシーンで『花火』『死体』を使って心情の変化、そのきっかけを表現することができていたと思います。そういった意味では転換点での使用ですね。

 オチに『空欄』を使い、空欄を埋めることで環境の変化を示してのきれいにまとまった構成だったと思います!!



 ○ ○ ○



 17.見えてるか、花火

 作者名:南雲 皋


 お題から連想されるものを、読者の想像を越えてお出しする。怖い。しっかりと怖い描写がされてるのが怖い。

 主人公とナナシの間にある、決して理解できない、理解できることのない溝、の表現もよかったですね。分かったつもりになっていて、現実を突きつけられて「分かってなかったんだ」と思っても、それは分かっていなかったことが分かっただけで、理解できたわけではないんですよね。このどうしようもない立場の違いの表現が見事でした!!

 クラスメイトみんなで送り出すことができて、せめて花火は見れているかと偲ぶ姿に切なさを感じましたね。

 暴力表現はしっかり怖かったです!!!


 お題の批評面では、『死体』を山場に、『花火』をオチに配置してそれぞれのシーンを印象付けられていたと思います。

 一方、『空欄』に関しては起点で読者の興味をひくように配置されていましたが、それに対応する情報が本文内に見受けられなかったのが物足りなさを感じました。これ回収できてたら隙のない三題噺だったと思うのですよな!!

 わかる。2000字少ないよね。



 ○ ○ ○



 18.夏は妄想の中で過ごしたい

 作者名:緋色刹那


 勢い!!ww 勢いですべてを置き去りにしてくれた作品でした!!

 読者がツッコミを安心して入れられる状況を作ってあるので、悲劇を存分に楽しむことができました。他人の悲劇ってのは、自分が巻き込まれなければ喜劇であるってのは古今東西を問わず真理ですからね。チャップリンもそう言ってます。妄想の勢いと、それに負けない悲劇的な状況の発生が楽しかったです。

 オスカーは他人の悲劇はどれも月並みだ、なんて言葉を残しましたがここまでの悲劇(読者にとっての喜劇)はそうそうないだろうと。


 この作品は、短編的というよりはショートギャグに近いので、短編的な構成を当てはめるのは適切ではない気がするんですよね。要素要素が、読者の目をひくように、インパクトを強めるように、喜劇たらんとするように配置されてるので。

 この作品を見て、「なんてかわいそうな主人公なんだ、助けまいらせん」って思った人いないでしょ? 多くの読者が「なんてかわいそうな主人公なんだwww 助かるといいねww」だと思うんですよね。

 インパクトのある序文の『空欄』も、埋めかけの『死体』も、喜劇のための演出としてしっかり使われていたと思います。なんなら打ちあがった『花火』はよーいどんの雷管の音みたいだったし。

 結論、良いギャグだったなー、と満足感を得られたわけです、はい。



 〇 〇 〇


 19.死体になった男

 作者名:三衣 千月


 自作。ゆえに感想は省略!!!

 オモシロいものを書きました!! 以上!!!



 〇 〇 〇



 さて、中編の感想はここまで!

 三題噺についてのスーパー余談をお話をするおまけコーナーのお時間です!!

 ええ、余談です。あくまでも余談。役に立つかどうかは分かりませんが、人生ってのは無駄なもので自分を着飾ることだと太古の昔から言われておりますゆえに。


 嘘です。

 てきとうに今考えました。座右の銘にしたらミツイみたいになれること請け合いです。なれなくてもクーリングオフ不可です。お前もミツイにしてやろうか。


 今回のお題『空欄』『花火』『死体』がバランス良いって話からでしたね、確か。

 お題はただワードとして登場させるだけではお題を使ったとはいえないってのが、お作法にうるさい古式・三題噺においてのゲームルールなんですが、もちろん守らなければ減点だなんて思ってません。創作は自由です。知識として知ってた方が自由度が増すよ、ってだけで。型を破るにはまず型を知らないといけないわけです。


 さすがに落語の構成をまんま小説に持ってくるのも現実的ではないのでここから先はミツイ的分類になるのですが、お題の使い方として


・フィールド(場に見せておく情報。常にあるもの)

・トラップ(伏せておく情報。ここ一番で出す)

・マーカー(注目させたい情報。転換点や起点など話の曲がり角で出す)


 の三種類に分けられると思ってます。

 この分類と、幾通りもある小説の構成を照らし合わせながらどこに何を配置するか、オチのトラップを引き立たせるためにどこにマーカーを置くか、どう注意を逸らすか、逆に注意を引くか、などを考えていくと押さえなければいけない情報が見えてくるんじゃないかなぁと。


 で。

 お題そのものに属性が付与されてる場合って、展開がすごく圧縮できるんですよ。

 今回で言えば『花火』がそれですよね。基本属性が夏・夜・華やか、みたいな。何を説明するでもなく、"花火が上がった"と書くだけで夏だろうな、夜だろうな、ってのがすんなり入る。シーズナブルなお題でしたね。実際、多かったですよね。夏だったり夜だったりの舞台。

 ここに、『死体』があるのがいい。属性が被ってる部分と、相反する部分が同時に存在するんですよ。同じ属性を強めることもできるし、華やかな花火と寡黙な死体を対比させてもいい。

 じゃあ『空欄』はどうなんだと。別に季節感もないしそれ自体に感情が乗ってるわけでもない刺身のツマみたいな存在なのかと。そこがいいんですよ。情報がなくて、他のお題と関連が薄いのがいいんです。嫌でしょ? 七色に光るゲーミング刺身のツマが添えられてたら。真面目な話、近いお題だと、寄せるか乖離させるかみたいに選択肢が狭くなっちゃう。


 仮に今回のお題、『空欄』の部分が『ハムスター』だったとしたら、ハムスターを死体にするかしないかの二択が強制されるよね、それは自由度が低くなるから作品の幅が狭くなりそうだよね、とそういう話。


 三題ぜんぶ全部親和性が高いのが一番難しいので。次に難しいのが三題ぜんぶ無関係、または遠すぎる。一番バランスがいいのが二つは仲良し、一人だけ別軸、みたいなお題パターンです。まさに今回のそれですね。


 違うぞ!?

 ミツイが『空欄』のお題を出したからってミツイがハブられてるわけじゃない!! ないんだからね!!! ……ないよね?


 怖くなってきたので中編のおまけはここまで!

 後編は残りの作品の感想をしたためますね!! 次回のおまけコーナーではお題を使ったトラップの作り方レシピをいくつかご紹介します。お楽しみに!!!


 したらな!!!

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プチ三題噺企画 『空欄』『花火』『死体』 三衣 千月 @mitsui_10goodman

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