第26話 懐かしい顔ぶれ
「お嬢様…お嬢様ぁぁぁぁ」
馬車から降りた私の姿を見た途端、アビーとドニが勢いよく駆け寄ってきた。
「アビー!!それに、ドニも」
私の声が震えてしまったのは、再会の喜びと彼らの温かい反応に心が揺さぶられたからだろう。
「ああ、私のお嬢様。こんなに痩せて…。この質素な服はいったい。…着替えましょう、今すぐ着替えましょう。お嬢様に似合う服は、このアビーがたくさん準備いたしております」
アビーは涙ぐみながら、私の服を見て驚き、すぐにでも何とかしようと慌てて言葉を繋げる。
「いや、待てアビー。お嬢様は、俺の料理が食いたいに決まっている。好物は、すぐにでも作れる」
着替えよ!食事に決まってんだろ!と、言い合う二人。相変わらず仲のいい夫婦だわ。
「…リアの着替えは大賛成だが、アビーは、磨きまくるだろ?時間がかかるから、先にみんなで話をしよう」
お兄様の落ち着いた声が、二人の言い争いをやんわりと制止した。
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「移動中、概要は聞いたが…まあ、思った通り一番の原因はクロードだ」
婚約が無くなりそうなこと、体調のこと、邸や学院でのこと。包み隠さず伝えるのは苦しかったけど、馬車の中でも、お兄様は私の話に耳を傾け、優しく聞いてくださった。全て伝えるとアビーたちが心配するからと、お兄様がみんなに掻い摘んで話をしてくださっている。
「な、なんですって!そんな馬鹿な話がありますか!」
アビーが怒りのあまり声を震わせながら叫ぶ。
「あの野郎、散々お嬢様に世話になっておきながら、…殺りますか…」
ドニ…
「殺すのはいつでもできるから、ドニは少し落ち着きなさい」
セバス…
「ああ、今すぐやらなくてはいけないのは、エミリアの婚約解消だ。あの伯爵が素直に頷くとは思えないが、こちらにはすでに、エミリアがいる。取り戻したのだから、もう渡す気はない!侯爵家当主として、今すぐ手続きを進める」
「…あちら有責ですから、慰謝料ぶんどってやりましょう」
アビーの鋭い声が続き、皆の意気込みがさらに強まる。私のためにこれほどまでに動いてくれる存在が、どれほど私を支えてくれているかが胸に迫る。
が、私には気になることがある…早めに確認をしなきゃ…
「あのー、私は、お兄様の邸に居ていいのでしょうか?」
できれば落ち着くまではここに居たいのだけど
「「「「は?」」」」
皆が驚いた声を揃えた。やっぱり、ずうずうしかったかしら。
「え?あ、ごめんなさい、許可がいただけるのでしたら、お兄様の領地のどこでもいいので、その、置いてくださるだけでも…」
隣に座ったお兄様が優しく手を握る
「…リア?ここは、私たちの邸だし、私たちの領地だよ?死ぬまで居てくれていいんだ。いや、居るだろう?」
お兄様の言葉は、まるで当然のことを言うかのようだった。
「そうですよ、お嬢様。ヴィルフリード様は、お嬢様がこの邸を気に入っていたことを知っていましたから、新しく立て直すこともなかったのですよ。王都の邸もなくなったのだから、本当は、もっと大きな屋敷でもいいのに」
アビーの言葉に、私の心はさらに揺さぶられる。お兄様…
「そうですよ。手狭なので、住んでいる使用人はここに居る3人。あとは通いで数名なのです。私たちのことだって、お嬢様がいつかこの地に来た時に知っている使用人がいた方が安らげるだろうと、ヴィルフリード様が侯爵になった時に声をかけてくださったのです。もちろん、私たちはお嬢様に会いたかったから大喜びでしたが」
私がいつか来た時に少しでも安心できるようにと、お兄様が用意してくださった環境。私のため?
「お金の心配もいりません。今、侯爵領は潤沢なのです」
セバスが、にっこりと笑みを浮かべて言った。
お兄様を見ると、優しく微笑んでいる。その微笑みは、私にとって何よりも安心できるものだった。
「お兄様…ありがとうございます。ふふ、みんな、お世話になるわ、よろしくね」
そう言うと、みんなが一斉にうんうんと頷いてくれた。
「あー、腹減った。なあ、もう終わりか?飯にしようぜ」
セシル殿下が飾り気なく言い放つと、皆が一斉に冷たい目を彼に向ける。
それでも、セシル殿下の軽い感じが、この場では、微笑ましく、思わず笑ってしまいそうになった。
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