第3話 ずっと一緒にいる人
「いいかい、エミリア。一気に消そうと願ってはいけないよ。少しずつ、少しずつだ。」
婚約者となり、伯爵家に訪問に行く際には、お父様に念を押された。
黒い靄は、願う度に小さくなり、クロード様も外で走り回れるほどに、元気になった。しかし不思議なことに、伯爵様がクロード様に近づくと、黒い靄がゆらめき嫌な感じを醸し出すのだった。
それがなぜなのか想像もできなかった小さい頃は、伯爵様が少し怖い存在のように感じて、誰にもそのことを言えなかった。
伯爵様は、幼いクロード様が闇魔法を怖がらないように『エミリアが傍にいてくれると、元気になれる』とだけお話してくださった。
「エミリアが、たくさんおはなししてくれるから、わたしはげんきになったんだね。」
と、朗らかに笑うクロード様に会うのはとても楽しかった。私たちは、互いの家を行き来し、よい関係を築いていた。婚約者の意味をあまりわかっていなかったが、ずっと一緒にいる人ということに何の疑問もなかった。
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「エミリア、大事な話があるからここに座って」
クロード様に出会って2年目。7歳となったころ、お父様に執務室に呼ばれた。
「大事な話というのは、この侯爵家のことなんだ。エミリアは一人娘だろう?クロード君の婚約者の話がある前は、婿を取り、エミリアにこの侯爵家を継いでもらおうと思っていたのだけれど…このまま、将来クロード君と結婚するのなら、跡取りのことを考えなければならない。幼いお前はよくわからないだろうが、どうしたい?」
正直、難しいことはわからなかったが、
「私は、優しいクロード様と一緒にいたいです。」と、お父様に伝えた。
「…そうか。ああ、わかった。」
少し悲しげな顔をするお父様のことが少し気になったが、幼い私は特に深く考えはしなかった。
お母さまは、元々体が弱く、私を産んだ後、お医者様に「もう一人は望めない」そう言われていたのだとお父様に聞いたのは、両親が亡くなる前の年だった。
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兄ができる。そう聞いたのはそれから間もなくだった。
「隣国に住む私の従弟の子でね、伯爵家の3男なんだ。遠くに住んでいるからエミリアは会ったことがないのだけれど、すごく魔法が得意ということだよ」
「魔法が?何の魔法でしょう!楽しみだわ、早く会いたいわ」
「土魔法と水魔法だそうだよ。この国では珍しいね。私も生まれたばかりの時に会っただけだから、どんな風に成長したのか楽しみだ。私たちは、先に伯爵領に行って顔合わせをしてくる。手続きは時間がかかるから、一緒には帰ってこられないだろう。エミリアが会うのは、もう少し先かな?」
兄弟のいなかった私に兄ができる。しかも魔法が得意。会える日を指おり数えて待っていた。
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