第2話 闇魔法
この国では大抵の者が魔法を使える。その大半は、火魔法だが、私の魔法は、亡くなったお母様と同じ「闇魔法」だ。
望んだものを闇の中へと放り込んでしまうかのように消し去る私の魔法は、私の運命を変えた。
*********
5歳のころ、お父様が仲の良い伯爵家へと私を連れて行ってくださった。
そう、このクロード様のお屋敷だ。
「エミリアと同じ年の病弱な令息がいるそうだ。あまり外に出られないから話し相手になってほしいと頼まれたのだがどうかな」とお父様に言われ、何の話をしたら喜んでもらえるだろうと、うきうきしていたことを覚えている。
初めて会った時のクロード様は、ベッドの上で青白い顔をしながらも、とても優し気に微笑む男の子だった。
「本当はね。外で思いっきり遊んでみたいんだ。」
そういって悲しそうに微笑むクロード様のまわりには…黒い靄もやが見えた。まとわりつくような、気持ちの悪い靄。
幼い私は、この靄がクロード様にとってなぜか悪いもののような感じがし、消えてほしいと強く願った。
闇魔法が発動したのはその時だ。
靄がだんだん小さくなると同時に、クロード様の顔色に赤みが差し、私はというと、そのまま気が遠くなり倒れた。
目が覚めた時、ベッドの横に座る両親と土下座をする伯爵様が見えた。
「た、頼む!我が息子のため、力を貸してほしい。あんなに元気になったのは初めてなんだ。勝手なお願いだとは思うが、エミリア嬢の魔法が何の属性でもいい、詳細がわかったら、息子を助けてやってほしい!!」
「だめだ!娘の状態を見ろ。倒れたのは、初めて魔法を使ったから…いや、そういう問題ではないような、嫌な予感がする」
「ええ、…おそらく私と同じ闇魔法だと思うけど、何かを吸収、いえ消すのかしら?代償が大きいように思うわ。可哀想にこんなに顔色が悪くなるなんて…」
「で、では、きちんと魔法判定を受けてからでいい。前向きに考えてほしい!!!」
大人の話がよくわからないまま、私は、お父様に抱きかかえられ、侯爵家へと帰った。
*********
後日、属性を調べてもらった結果、やはりお母様と同じ闇魔法だった。
しかし、闇魔法自体希少であり、解明も詳しくされていないこともあって、効果をその場で断定することはできなかった。
いくつかの前例や私が起こした現象を考慮して、『強く願うものを消し去る』のであろうという判定が出た。
靄に関しては、私にしか見えないらしく、何か悪いものであればあるほどはっきり黒々として見えることが分かった。
「息子は、生まれた時から体が弱く、どんな医者に見せても原因がわからなかったのだ。黒い靄か…」
「心当たりはないのか?」
「ああ、いや…わからない。とにかく、全部でなくていいのだ。少し、ほんの少しでも靄とやらを消してくれれば…頼む!!」
親同士が仲が良いとはいえ、足しげく令嬢が伯爵家に通うのは外聞が悪いと、結局、婚約という形をとることになった。『無理はさせない、結婚に関しては、成人したら本人たちの意向を大切にする』という条件付きでの婚約者。
「ありがとう!!決して無理はさせない。息子より大切に優先することを誓おう!!」
苦笑いの両親に何度も頭を撫でられた。両親から私へのすまないの意味が込められていたのかもしれないが、私は優しげなあの男の子にまた会えることをうれしく思っていた。
靄を消すことの代償が年々大きくなることなど知りもせずに。
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