第40話 私の息子 side コルホネン伯爵
数日後、肥立ちが悪いという言葉では片づけられないほど、妻の体調が悪化した。彼女の顔は日に日に痩せこけ、やがて目からは光が失われ、ついには命の灯が消えてしまった。
妻の死は、私の心に深い悲しみを刻み込んだが、それ以上に、妻を失ったという現実が何とも言えない虚無感をもたらした。
葬儀の日、親族が集まり、私はその場で一つの疑問を抱いた。葬儀で集まった妻の親族にパープルの瞳はいない。妻の遺伝子を受け継いだはずと思っていた。私と彼女の家系には存在しない色、パープル。思い切って親族に尋ねてみたが、誰もその特徴に心当たりがないという。
その疑念は、私の心に不安の種を蒔いた。そして、私は親子鑑定を決心した。
その結果は、私にとって耐えがたいものであった。息子だと思っていた存在が、実際には私の血を引いていないという事実が明らかになったのだ。
それでも私は…亡くなった妻との最後の繋がりである息子を愛し、育てる決意をした。愛する妻の忘れ形見として、この子を大切に育てようと心に誓った。しかし、その選択が…それがいけなかっただなんて…
”おそらく、貴殿に愛情深く微笑まれながら抱かれている息子に嫉妬したのだろう。『私の愛する人の愛を奪わないで』そんなところだろうか、そして呪った。産後の体が弱っている身にその代償は大きかったが、いかんせん、呪いだ。一度かかってしまえば、この効果は、かけた相手が亡くなった方が強くなる。負の感情によってな。
リアの話で、『伯爵が息子に近づくと立ちふさがるように靄が濃くなる』とあったが、…つまり、貴殿から息子を守ろうとしていたのではなく、貴殿の愛が息子に向くたび、より彼を恨んだと考えるのが妥当だろう。
誕生日…夫の愛を失うのを恐れた日、そして、夫の愛を自分から奪い取ろうとしている者が生まれた日
同じ邸にいて、いくら妻や娘のように振る舞っていたとしても、ロザリー親子に呪いがかからなかったのは当たり前だ。愛してなどいないのだろう?
大切の思っていたであろうリアには、少なからず呪いが向いていたかも知れない。本人は気づいていなかっただろうが、あのやつれようは、その影響もあったはずだと見ている。私はそれも憤っている。
とにかく、このことからある仮説を立てた。私の友人のセシル殿下も同意見だ。
『愛を奪うものを許さない』
そうであれば、クロードは、息子でなくなればいい。
廃嫡をし、あなたと無関係になり、邸を出る。あなたがクロードの人生に関わらなくなれば、呪いから解放され、命は救われる。
まあ、仮説が外れたら、また相談に乗ってもいい。”
私の息子として、この邸で死ぬか
私と赤の他人となり、平民として生きるか
クロードは、あの侯爵を説得などできないだろう。ならば、もうすぐ帰ってくる…伝えなければならない…
クロードに生きていてほしい。当然だ!でも…私の息子として、この邸で死ぬことを選んでほしい
勝手ながら、そう思う自分がいる。
もし、クロードが私の息子として、この邸で死ぬことを選んだとしたら…
何もかも侯爵に差し出し、エミリアからの救済を、そう、父として願おう
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