第35話 消すのではない

鑑定をやると決めたが、なぜアルセイン伯爵夫妻を呼んだのだろう?危険な鑑定なのかしら?


不安な気持ちのまま、お兄様を見る。



「魔法判定には、伯爵以上の貴族4人の見届けが必要だから、アルセイン伯爵夫妻にも来てもらったんだ。私の親だ。結果がどうであれ、リアの不利になるような事、決して口にはしない。保証する」



不安そうな理由が分かったのか、お兄様が優しく教えてくれた。そうだったのね。



アルセイン伯爵夫妻は、何やら感動した様子で何度も覗いている。



セシル殿下が魔道具の準備を始め、いよいよ鑑定の時間になった。魔道具に手をかざし、指先から静かに魔力を流し込んだ。その瞬間、部屋の空気が変わり、全員が息を呑んで見守る。





「…やっぱりそうだな」



セシル殿下が低くつぶやいた。



「何が分かった」


お兄様がすぐに反応し、質問を投げかける。




「リアちゃんの魔法は闇魔法。ただ、詳細が違う。強く願ったものを消すのではなく、封印する、だ。」



封印?



「つまり、封印だから何かのきっかけで解かれることがある。そのクロードって奴も誕生日がきっかけで封印が解けているのだろう?封印の能力なのに、無理に『消そう』と願ってしまっていたから、上手く封印できず、こんなに体に影響が出たんだな」



セシル殿下はそう説明するとおもむろにポケットから奇妙なインク入れを取り出した。



「これは俺が趣味で集めているものだ」



「何だか禍々しいな」



アルセイン伯爵がつぶやく



「そうだろう、恐らく呪われている」


「そんなものも邸に持ち込むな!!」



セシルが平然と答えると、お兄様は思わずといった風に声を上げた。




「まあまあ、大した呪いじゃないから。黒いインクを入れると血のような赤色のインクに代わるって代物、大したことないだろ?」


「十分気持ち悪いがな」



「はは、リアちゃん何か見える?」



じっとインク入れを見つめる。黒い靄がまとわりついている。私は、セシル殿下の言葉に頷いた。





「このインク入れのここに宝石がついているだろう?宝石に、今、見えている物を封印するイメージで魔法を使ってみるんだ」



「はい」



集中しながらセシル殿下の指示通りに魔法を放つ。すると、靄は静かに石の中へ吸い込まれるように消えていった。



どれ、とセシル殿下が確認するようにインクを入れた。結果は、黒のままだ。




「上手くいったようだね。体に変化は?」


「全くありません」



セシル殿下は、満足げに頷き、確信を持って言った。



「間違いないね。きっと今までは、何とか強く願って消すように祈りながら、封印をしていたことになる。能力と違うことをしようとしたんだ。そりゃ、体に影響は出るだろう」




封印、では、今まで消していたものは全て、封印していたというの?


ベンさん!大丈夫かしら…心配になってきたわ。…あ!でも、そうしたら、私が消してしまったと思っていた私の記憶も、封印を解いたら思い出すってこと?


楽しい思い出…ああ、希望が見えてきたわ。


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