第51話雨雲封印

「…やっぱり、すごい雨ね」



今日は、雨雲の封印を試すため、王都へ来た。お兄様とセシル殿下、セバスも一緒だ。


重々しい空気が漂う中、雨が絶え間なく降り続けている。傘をさしても無意味に思えるほどの大雨だ。冷たい雨粒が肌に触れるたび、少しずつ心まで冷えていくような気がする。


雨雲の封印は、お兄様とセシル殿下が、国王陛下に提案したのだと聞いた。きっと、私が自分のせいかもと、思い悩んでいたから、お2人とも考えてくださったのだわ。なんだか申し訳ない。



でも、雨雲か…上手くいくかしら。私の中にある不安が大きく膨らんでいく。果たしてこの封印が成功するのか、もし失敗したらどうしようという思いが頭をよぎる。


不安な顔をしていたのか、お兄様が優しく声をかけてきた。



「失敗しても大丈夫だよ。失敗したら、魔道具のせいだ。」



その言葉に思わず笑ってしまう。



「ひでえな、俺の魔道具は完璧だし、リアちゃんの魔法も完璧だ。きっと上手くいく。…でも、体に影響が出そうなときには早めにやめるんだぞ?」



セシル殿下が真剣な表情で私を見つめる。



恐ろしく厚い雨雲が、まるで黒い絨毯を広げたように空一面を覆っていた。雲は低く垂れこめ、まるで今にも地上に押し寄せそうな圧迫感がある。空を見上げると、その暗黒が重々しくのしかかってくるようで、胸の奥に不安が沸き上がる。


しかし、その不安を振り払い、私は深く息を吸い込んだ。目を閉じ、心の中で雲を封じ込めるイメージを描く。両手を静かに持ち上げ、全身に魔力を巡らせる。指先に魔力が集中していく感覚があり、空気がピリピリと緊張感に包まれた。



その瞬間、雷のような鋭い光を放たれ、閃光が暗雲の中を切り裂いたかのように見えた。

雷鳴が轟いたかと思うと、厚い雲がゆっくりと裂け始め、魔道具に吸い込まれていく。



暗闇が薄れ、光が隙間から差し込んでくると、新たに息を吹き返したかのように明るさが広がった。雨の匂いが薄れ、暖かい光が地上に降り注ぎ、辺り一面が鮮やかに輝き始めた。





「素晴らしい」


セバスの感嘆の声が聞こえた。



「この中に雨雲が…閉じ込めた雨雲は、…雨不足な地で封印を解いてみるか、有効活用できるかもしれない」


セシル殿下は、魔道具を見つめ、小さな声で何かを呟いているようだったが、はっきりとは聞き取れない。




「リア、体調は変わりないかい?」


「ええ、少し疲れた感じはしますけど、大丈夫です。」



お兄様は相変わらず心配性ね。




「…王都に雨が降るたび、封印しに来たほうがいいのかしら?」

私は、ぽつりとつぶやいた。



「いや、厚い雨雲が王都にとどまっていたが、それを封印した今、しばらくは雨は降らないだろう。尋常ではないくらい続かなければ、再び封印する必要もない。雨が、全く降らないのも問題だしな」



さっきまで、一人で考え込んでいたかのように見えていたセシル殿下が、返答してくれる。

あら、私のつぶやきが聞こえていたのね。




「それにしても、昔の私は、消えてほしいと願って、どこに雨雲を封印していたのかしら?」



思い出そうとするが、記憶は曖昧で、今はその答えを知る術がない。



「確かにそうだな。よくわからないが、魔法は不思議だから面白い。俺も考察してみるか」



セシル殿下が楽し気に言った。




***********


「エミリア姉ちゃーん」


コリー君の元気な声が遠くから聞こえてきた。振り返ると、彼だけでなく、マリーさんとアリーちゃんも一緒に駆け寄ってくるのが見えた。



王都へ来たもう一つの目的、つまりマリーさん一家との再会がついに実現したのだ。



彼らの笑顔が目に入ると、私の心も自然と暖かくなり、疲れが少し和らいだ気がする。




ああ、道が濡れているのだから、そんなに走っちゃ危ないわ。

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