第52話王都での再会

「こら、エミリア様だろ。侯爵令嬢に失礼だと、あれほど教えたのに」


マリーさんが少し慌てた様子で、コリー君をたしなめる。



「だって…」


シュンとするコリー君



「いいんですよ、エミリア姉ちゃんで。マリーさんも気にせず、エミリアとお呼びください。ね、お兄様」


「こちらの美形は、侯爵かい!じゃなかった、侯爵であらせられますか?」



マリーさんが少し戸惑いながら尋ねると、お兄様が苦笑いを浮かべた。




「エミリアが望むように、楽にしてくれるとありがたい。その…、敬語も苦手ならそのままで。不敬とは言わないから安心してくれ」


「あー良かった、むず痒くてたまらなかったんだよ」



マリーさんは安堵の表情を浮かべ、自然体に戻った様子だった。あら?



「あの、ベンさんは?」


「ああ、ベンね。エミリアから手紙をもらって、今日来ることを知ったから、家で、食事の用意をしているよ。ベンはコックだからね。腕によりをかけて、うまいもん食わせるって、はりきってるよ」


「俺も、さっきまで手伝っていたんだぜ」


「そうなのですね」



お兄様は、私たちの様子を見ていて、ふと真剣な表情になった。




「マリーさん、こんなところでなんですが、感謝を述べさせてください。リアに会えたのは、マリーさんのおかげです。リアに優しくしてくれてありがとうございます」


言葉には、深い感謝と誠意が込められていた。お兄様…




「いや、大したことなんてしていないよ。それに、助けてもらったのは私たちの方だし…」


マリーさんは少し照れくさそうに答えたが、お兄様はさらに続けた。




「それでもです。心身ともに弱っていたリアに寄り添ってくれた。本当にありがとう」


「い、いや、貴族様にお礼を言われると何とも…エミリア何とかしておくれよ」


「ふふ、マリーさんったら。あ、よかったらこれを」



困った様子のマリーさんに、セバスが準備していた領地の野菜が入った箱を差し出した。




「リアが、きっとマリーさんは高価なものは望まないと言ったので、領地の特産の野菜です。マリーさんへのお礼です」



「うわ!野菜かい?すごいね。見たことないものがたくさん。ベンが喜ぶよ。悪いねぇ。ああ、高価なものはいらないさ。いや、高価なものも嬉しいよ。だけど、盗まれるんじゃないかって毎日、はらはらするのも嫌だし、変に金目のものなんかあったら、またベンの悪い虫が騒ぎ出すかもしれないだろ?ああ、野菜が一番。食べ盛りの子もいるしね 」



マリーさんは笑顔で話し、その楽しそうな様子に、私も自然と笑顔になった。



「アリー、やさい、だいすき」



「俺は、肉の方が好きだぞ」



子供たちが元気に答える。その言葉に場が和み、笑い声が広がった。




「はは、そうか。野菜は定期的に届けるつもりだったから…ああ、わが領地は、燻製肉も特産だ。それも入れよう。鮮度を保つ魔道具があるから、距離はあるが大丈夫だ」



お兄様が提案した。



「まじか、言ってみるもんだな、母ちゃん」



コリー君が、喜びを隠しきれない様子で言うと、皆が再び笑った。マリーさんだけが少し恥ずかしそうにしていた。




コリー君が、箱を覗きながら言う。



「芋もたくさんあるぜ。練習し放題だな、エミリア姉ちゃん」


「ば、ばか、あんた。令嬢はそんなことしなくても…」



慌てるマリーさん


お兄様が目を丸くして私を見つめる。




「リア、芋の皮をむいたのかい?初耳だ」


「ええ、少しお手伝いを。駄目でしたか?」



私は少し不安げに答えた。令嬢がすることではないから、叱られるかもしれないと心配になったが、お兄様はいつものように微笑んだ。




「何も問題ないよ。でも、リアの手料理か…いつか食べさせてくれるかい」


「はい!ドニに習います。食べてください、約束ですよ」



お兄様の言葉に、私は少し驚きながらも嬉しくなった。自分が作った料理をお兄様が喜んでくれる姿を想像すると、自然と微笑みがこぼれた。




「食事も用意してくれているというから、行っておいでリア。セバスは付いていくが、私たちがいたら気を遣うだろうから、どこかで時間をつぶす。夕方には、迎えに行くから楽しんで」


「そうだな、リアちゃん安心して。ヴィルの面倒は俺が見るから。なあ、ヴィル、仲良く買い物に行こうぜ」



彼の声はいつもと変わらず軽やかで、どこか楽しげな響きを持っている。




「なぜ私が、お前に面倒を…」


とお兄様が少し不満そうに答えた。



「そう言うなって、珍しい魔道具、お前も興味あるだろう?」



セシル殿下はそんなお兄様の態度を気にすることなく、にっこりと笑いながら肩を組んだ。



「…本当に珍しいんだろうな」



ふふ。お兄様は、少しそわそわしながら、セシル殿下の言葉に興味を示しているようだった。

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