第43話封印

私は深呼吸をし、心を集中させた。


魔道具を手に取り、ゆっくりとその力を感じ取る。その力が、手のひらから伝わり、魔道具の内部に潜む強大な魔力が、微かに脈打っているのがわかった。私は、禁術の書を封印する準備を始める。



目を閉じると、周囲の音が遠くなる。


頭の中で、封印するイメージを丁寧に思い浮かべ、魔力を集中させた。手のひらにじわりと熱が集まり、魔道具の中心に向かって魔力が流れ込んでいく。封印のための術式が頭に浮かび、私の中で形を成し始めたように感じた。




「リア…」


お兄様の心配そうな声が、かすかに聞こえた。私は、もう一度深く息を吸い、魔力をさらに高める。


魔道具の中心に封印を施す。光が瞬くように、魔道具全体が一瞬だけ輝き、次の瞬間には、静かに禁術の書が消えていた。


「…成功、しましたわ」



静かに呟いたその言葉に、場の空気が一瞬、緩んだように感じた。




「よくやった、リアちゃん」


セシル殿下が満足そうに微笑んだ。お兄様も、ようやく緊張を解いたように、私の肩に手を置いてくれた。その手の温かさに、私もまた心からの安堵を感じた。






「リア、平気か?」


お兄様の目には不安が浮かび、私の顔を覗き込むようにしている。



「大丈夫ですわ、お兄様。」


そう答えたものの、胸の奥ではまだ鼓動が早く打ち鳴っているのを感じていた。さっき封印を施した魔道具が手の中で重く感じられる。靄のような曖昧なものだけでなく、形あるものまでもこんなに小さな魔道具に封印できるなんて、自分でも驚きだった。



「思ったよりすぐだったな。封印…応用が利きそうだな。そうだ、リアちゃん、隣国の魔法省に入るのはどうだ?」



セシル殿下は感心したように呟き、目を細めながら、私が手にした魔道具を興味深げに見つめている。



「そんなことしたら、皇帝に目を付けられるだろう」


お兄様がすぐに反論した。



「そうだな。うちの国は、闇魔法に偏見はないし、むしろ封印なんて希少な闇魔法、皇帝は手に入れたがるな。そうなったら皇族と政略結婚。結婚していない皇子は…あ!俺か。はは…ははは…」



彼は冗談めかして言ったが、言葉の途中で顔から表情が抜け落ち、急に青ざめていった。




「さ、さあ、用事も済んだし、帰ろうかな…」


その声はどこか震えていた。彼は視線を逸らし、落ち着かない様子で、部屋の出口をちらちらと見始めた。



「…おい、例の頼みごと、忘れるなよ…」


「お、おう!任せておけ…帰ったらすぐやるからな。は、ははは…」


セシル殿下は急いで応じたが、声はどこか上擦っている。彼は、慌ただしく立ち上がり、転移魔法を使う準備を始めた。顔にはまだ、青ざめた色が残っていて、早くここを離れたいという気持ちがありありと見て取れた。どうしたのかしら?




「では、リアちゃん、ヴィル、またな!」



殿下はぎこちない笑顔を作り、別れを告げると、光の中に姿を消していった。

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