第18話 リアの婚約者 sideヴィルフリード

リアと一緒にお茶を楽しむ午後のひととき。彼女の澄んだ声が穏やかに響き、昨日見た夢や、セバスに少し叱られたこと、そして街の新しい店に行ってみたいという話に花が咲く。リアの表情は生き生きとしており、その瞳が輝くたびに、私の心も軽やかになる。


ああ、なんて楽しい有意義な時間なんだろう。この瞬間が永遠に続けばいいのに。


リアが話すたび、彼女の笑顔を見るたびに、胸の奥が満たされていく。この何気ない会話が、私にとってはどれほど大切で貴重なものか。リアと過ごす時間は、私の人生において最も幸せなひとときであり、彼女の存在が私の心の空白を埋め、世界に色を与えてくれる。ああ、神よ、感謝します。


そんな至福の時間に、突如として影が差し込んできた。何の前触れもなく、邪魔をする人間が現れたのだ。



「初めまして、エミリアのお兄様になった方ですね。クロード・コルホネンと申します」



礼儀正しく挨拶をされた瞬間、私は胸に冷たい刃が突き立てられたような感覚を覚えた。さらに、リアがその男の名前を口にしたとき、私の心臓が強く打ち、呼吸が一瞬止まった。


「お兄様、クロード様は私の婚約者ですわ」



婚約者。結婚の約束を交わした相手という意味だったか。結婚!?

そうだ、なぜ忘れていたのだ…。リアが結婚するから、私は侯爵家の養子となったのだった。



「…クロード君、こちらこそよろしく」


リアの手前、不機嫌な顔を見せるわけにはいかない。顔の筋肉を必死に引き上げ、何とか微笑んで見せたが、果たして上手く笑えているだろうか。心の内では、冷たい嫉妬が渦巻き、笑顔を維持するのに全神経を使っていた。


「わあ、すごく美しい兄上だね。エミリア」


「そうでしょう。お兄様は魔法も得意だし、優しいし、とっても素敵なのです」



クロードの軽薄な言葉が耳に入り、私は彼を睨みつけたい衝動に駆られたが、そんなことはできない。一方、リアが私を褒め称えるその言葉は甘美で、心が浮かれる。


…邪魔だな、こいつ。早く帰らないだろうか。リアと庭へ行きたいのに。


「クロード様、お庭をご案内しますわ。そのあとお茶にしましょう」



!!!!!


リアのその言葉に、私の心が一瞬で凍りついた。クロードと二人きりで庭を歩くリアの姿が頭に浮かび、その光景が耐え難い苦痛となった。リアがクロードに微笑む姿を想像するだけで、胸が締め付けられるような痛みを感じる。



***********



「…父上、リアの結婚は決定ですか?」



父上は少し驚いたように私を見つめたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。



「ヴィルどうしたんだい、急に?ああ、今日はクロード君が来る日だったか、はは。ここに座りなさい。」


侯爵家を継ぐのだからとリアの魔法のことクロードやコルホネン伯爵との関係を教えてくれた。



「つまり、婚姻に関してはリアの気持ちを優先する。場合によっては、なしになる可能性もあると」


「そうだね。でも、今のところ関係も良好のようだし。魔法を使う制限もしているし、伯爵もそこはわかって無理をさせないようにしている。まあ、上手くいかなくても君に爵位を譲ることに変わりがないから、どうなってもリアのことだけは大事にしてやってくれ」


当然だ



「お任せください、リアのことは一生私が守ります」


「はは、プロポーズみたいだね」




私の大切な妹 大切な私のリア



彼女の幸せが何よりも優先されるべきだ。しかし、その幸せがクロードと一緒にいることだなんて、私は到底認められない。



リアは神が私に遣わした私の天使であり、私だけのリアのはずだ。



黒い靄?知ったことか!ああ、どうやってクロードから引き離そう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る