第17話 リアは天使 sideヴィルフリード

隣国から来た侯爵夫妻は、明るく私に声をかけていたが、次第に顔色が曇っていくのが分かった。まあ、そうだろうな。私とて、初めて会った人たちとの世間話など何も楽しくない。早く部屋に戻って本が見たいくらいだ。



養子の件はこれで流れるだろうと勝手に結論付けていたが、現実はそうではなかった。親戚の中に適齢の男子が他におらず、結局、私が養子に迎えられることになったのだ。



侯爵家と伯爵家だろう?その婚約者の令息が婿に来ればいいのに…とは思ったが、まあ、どうでもいいことだった。



侯爵の娘が、あまりにも嫌がったら連れて帰ると、私の両親も一緒について侯爵家に向かうことになった。馬車が侯爵家に到着し、私は何の期待も持たずにその扉をくぐった。




馬車から降りると、そこには鮮やかなミモザ色のドレスを着た愛らしい顔の天使がいた。


ん?鮮やか?愛らしい?天使?


自分の中で、今まで感じたことのない何かが動き始めた。小さな唇が微笑むたびに、頬がほんのりと赤く染まり、その姿は愛らしさを際立たせる、つまり、天使。そして、その天使が私に向かって歩み寄り、口を開いた。



「初めまして、お兄様。私は、エミリア・ヴァルデンですわ。仲良くしてくださると嬉しいです」


と、微笑んだ。



しまった! " 仲良く "ってどうするんだ?

互いに打ち解けること、親しくなることという意味だったか…こんなことなら兄を相手に”仲良く”の練習をしておくんだった!



悔やんでも仕方がないと、使ったことのない表情筋を無理やり動かし、今できる笑顔を天使に向けて自己紹介をする。



隣で、父と母が化け物を見るような目でこちらを見ているが、そんなことはどうでもいい。



私はただ、彼女の愛称を呼ぶ許可をもらい、庭に誘ってもらえることに喜びを感じていた。リアの好きな花は、私の好きな花になった。リアの一生懸命な説明で、初めて花を認識し、美しいと感じた。




侯爵家での夕食後、部屋に戻り両親と私の3人でお茶をしているとき、私は自分でも驚く言葉を口にしていた。


「…父上、母上。私はリアの兄になるために生まれてきたのですね。今日そう思いました。母上、私を産んでくださりありがとうございます」


感謝の言葉が、意図せず出た。父は飲んでいたお茶を吹き出し、母は号泣した。



「あぁぁ、ヴィルが人になったぁぁ」


母はそう叫びながら私に抱きついてきた。私は生まれた時から人ですが?産んだのは、あなたでしょう?


どうしていいか分からなかったが、これはリアを抱きしめる練習だと思い、そっと抱きしめ返した。すると、母はますます泣き出し、ふと父を見ると、彼もまた涙を流していた。なぜだ…



母が帰るとき、リアに何かを言っていたが、私はただリアの顔しか見ていなかった。その時に「私のお兄様」そう「私の」と言ってくれた彼女の言葉が、私の全てを満たしていた。

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