第16話 リアの兄になった日 sideヴィルフリード
「お嬢様を早く見つけてくださいね」
「人手は足りますか?何なら私は、この身一つで一緒に…」
アビーの声が震え、ドニもまた不安を隠せない表情だ。二人とも長い間リアに仕えてきたから、その心配は痛いほど理解できた。
リアは今どこにいるのだろうか。
見知らぬ場所で、どんな思いでいるのか。私は彼らの言葉に答えることなく、ただ頷くだけだった。
リアを心配するアビーとドニに見送られ、私はリアの探索に向かう。焦りと苛立ちが心の中で渦巻いていた。リア、待っててくれ!すぐに向かう。
ああ、こんなことなら、多少難しくても位置を特定できる付与をしておくんだった。自分の愚かさに苛立つ。リアの居場所を確かに知る術を持っていない自分が、今は憎くてたまらなかった。
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隣国の伯爵家の三男であった私は、早くから魔法の才を発揮し、将来は、魔法省かと嘱望されていた。
魔法を学ぶことは好きで、いや、正確に言うと魔法以外何にも興味を示さない子だった。
無表情で無関心、無感動。生活行動すべてに無が付く。誰かに話しかけられても答えるのが億劫で、頷くだけ。今思うと、人として欠けているものが多すぎる子どもだった。
花の美しさが分からず、行きたい場所に向かって花を踏みつけながら歩いていたら、母に泣かれた。
子供の話なんか馬鹿らしくて聞いていられず、会話の途中で本を読み出したら兄たちには怒られ、父には呆れられた。
何をもらっても、何を食べても、感動を感じない。生きるために必要なものだけあればいいし、生きるために食べればいい。そこに喜びなどなかった。喜び、悲しみ、怒りという感情も知識として知っているだけで、それが自分にあるかどうかもわからなかった。
私の内面には、冷たく無機質な空白が広がっていたのだ。
12歳になった頃、父に呼ばれ、養子の話を聞いた。
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「ヴィル、実はな。隣国の私の従弟である侯爵が、お前を養子に迎えたいと言っているのだが」
父の声には、少しのためらいが混じっていた。養子?そんな話は全く予期していなかった。
「子供はいないのですか?」
「一人娘がいる。しかし、婚約者も長男でな。嫁に出すそうだから侯爵家を継ぐ者がいないのだ」
「私は別に構いませんが…」
魔法学院に通わせてくれれば、というのが私の唯一の条件。それさえ叶うなら、環境が変わろうとも特に不満はない。私にとっては、どこで生活しようが大した問題ではないのだから。
「そうだよな、お前は構わないだろう。だが、しかし…」
父と母が顔を見合わせ、言葉を濁した。
普通の子と違う、そういうことか?じゃあ、そう言って断ればいいのに。
「お前は優秀だが…まあ、一度侯爵夫妻が会いに来るそうだから、そのつもりで」
「…はぁ」
ああ、面倒だ。
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