第6話 お茶会の真意

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「…エミリア、その恰好はなんなのかしら…」


王女フロランス様の冷たい視線が、私のシンプルな服装に注がれる。やっぱり…。王宮でのお茶会に、このような地味な装いで出席するのは、場違いだったのだ。



「フロランス様、申し訳ありません。お姉様は、お茶会にあまり出たことがないので、準備がよくわかっていなくて…」



私を庇うような言葉だが、そもそも無理に連れてきたのは、フルールなのに…




「それにしても…ねぇ、クロード?伯爵家の品位に関わるのではなくて?」



フロランス様はため息をつきながら、隣に立つクロード様に視線を向ける。彼は困惑した表情を浮かべているが、私の方がよっぽど居たたまれない。



「まあまあ、そういうなってフロランス。着飾っても大して変わりがないと思えば…」


フィリップ様が、笑いを浮かべながら肩をすくめた。軽い口調ではあるが、その言葉には皮肉が込められている。



「それもそうね。」


馬鹿にしたような笑みを浮かべ、くすくす笑い出す王女様。フルールも倣って笑い声を上げる。

クロード様はかばってくれず、私は唇を噛みしめながら、ただ黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。


「今日あなたをわざわざ私たちのお茶会に誘ったのはね、学院でのあなたの噂を知りたかったからなの」


突然、フロランス様は私に向き直り、鋭い目が私を捉える。ああ、あの噂のことか。



「あなたの傍によると不幸が訪れる、運気が下がる、けがをする。ふふ、どれが本当なのかしら?」


「っ、どれも本当ではありません」


私はきっぱりと答えた。しかし、フロランス様は、私の言葉に信じられないという顔をし、フィリップ様と目を合わせ、笑いをこらえている。



「何の根拠もないのに噂が立つわけがないわ。それに、あなた、闇魔法なんて恐ろしい魔法を使うのでしょう?」



何の根拠もないのに信じるのもいかがなものかと…



「闇魔法は恐ろしいものではありません」



「だが、エミリア嬢。闇魔法は、我が国でも希少であり、解明されていないことが多いからな。フロランスがそう思うのも無理はない。正確にはどのようなことができるんだい?」


フィリップ様の目にはどこか侮蔑が含まれている。



「強く願うものを消すことができる、と聞いています」


「へえ、じゃあ、このお菓子を消してみて?」


フロランス様はテーブルの上のお菓子を指さした。



「…消す意味を見出せなければ、強く願うことはできません」




私たちのやり取りを見ていたフルールがきょとんとした顔で答えた。


「願わなくても、食べてしまえば消えるのではなくて?」


「あはは、あーおかしい。本当だわ、その通りよフルール。なんだ、希少な闇魔法も大したことないのね」



皆が笑い出し、私はその嘲笑に耐えながらも、顔を上げて彼らを見返す。

だが、笑いが収まった後、フロランス様の表情は再び真剣なものに戻った。



「ねえ、その闇魔法で命を奪ったことはあるの?」



その問いに、場が一瞬で凍りつく。フルールでさえ、怯えたように私を見つめた。



「え?お姉さま、そんなことできるのですか?こわい…」


「さすがに、そんなことは、なあ、クロード?」



クロード様が私に向けた視線には、恐れが混じっている。伯爵様が詳しいことを伝えていないとはいえ…あなたが、その視線を私に向けるの?


「…命は奪ったことはないですが…自分に害をなすものに耐えられなくなったら、消したいと願ってしまうやもしれませんね」



私が目を逸らさずそう答えると、フロランス様の顔は怒りに染まった。



「ふ、不愉快よ。せっかくの楽しい雰囲気が台無し!もう帰って!」



私に害をなしている自覚があるから、怒ったのかしら。まあいいわ。帰っていいのなら、むしろ助かる。私はそっと礼をして、その場を立ち去った。

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