第24話 出て行ったあの女 sideフルール
あの女が出て行った。
ふふ、私とクロード様が抱き合っている様子を見たあの女の顔といったら、まるで雷に打たれたかのようだった。ああ、あの驚愕と悲痛の表情。何度思い返しても可笑しくてたまらない。
お母様に連れられ、この邸にやってきたとき、邸内の豪華さや広さに圧倒されながら、お母様の実家の男爵家との違いに驚いたのを覚えている。
ああ、私、ここの娘になるのだわ。伯爵家には一人息子とその婚約者がいると聞いていたけれど、そんなことはどうでもいい。だって、私はこんなに可愛いのだから。きっと、皆が私を気に入るに違いないと自信に満ちていた。
新しいお父様に紹介されたお兄様――クロードのことを初めて見たとき、私はこれまで見たどんな令息とも比べ物にならないほどの素敵さに心を奪われた。その瞬間から、私は彼に夢中になったのだ。でも、その隣で当たり前のように婚約者面して立っている女がどうしても許せなかった。
「…ねえ、お母様。私、お兄様のことを好きになったらまずいかしら?」
胸の中で膨れ上がる感情を抑えきれず、つい母にそう問いかけた。もし上手く奪い取ることができなければ、私と母は路頭に迷う。
「ふふ、本当の兄妹ではないのですもの。構わないわ。そうね…あなたがクロードと結ばれたら、ずっとこの家にいられるわ。ええ、協力するから頑張りなさい」
その言葉に背中を押されるように、私はクロードの心を奪うための行動を始めた。
まず、妹としてではなく、一人の女性として彼に意識されるよう、名前を呼ぶ許可をもらった。「クロード」と、親しげに呼ぶたびに、私の心は喜びで満ち溢れた。
「必ず奪い取ってみせる」――そう固く決意した日から、私は彼との時間を増やすことに努めた。病弱で外に出ることが少なかったクロード様を街に連れ出し、二人だけの思い出をたくさん作り上げた。
あの女が病弱だったのも私に有利に働いた。クロード様がパートナーとして連れて行くのはいつも私だったし、舞踏会で彼がダンスを踊るのも、共通の友達と交流を深めるのも私が相手だった。
満を期して告白してからは、私を女として意識してくれたことを感じ取っていた。でも…
なかなかあの女を切り捨ててくれない。
お父様も、異常にあの女を気に入っている。私にも口うるさく大切にしろと言ってくる。お父様が帰ってくる日は、私の部屋は、あの女のものとなる。
何度、嫌だとお母様に言っても、「数日我慢しなさい。あの人がいるときは、決してエミリアを邪険にしてはいけない」としか言わない。いつもはお母様だって邪険にしているくせに。お母さまがあの女の宝石を取り上げているのも知っているのよ、私。
まあ、いいわ。
あの日、あの女がいたことは誤算だったけど、おかげでクロードの決心も固くなったわ。盗み聞きしていたなんて、ずいぶんと卑しい行為だけど、私は寛大だから許してあげるわ。
ただ、まさかその日のうちに家を出るなんて…想定外だった。彼女が野たれ死んでも別に構わないけど、私の学院での課題をやってもらう人がいなくなるのは困る。
「お姉さまが学院を休んでいる間にやる課題を預かってきましたわ」
と言って、騙してやらせていたのに。腹が立つのは、学院に行っていないくせに、やってもらった課題はA評価。おかげでクロードもわからないことを尋ねてくる。私の評価が上がるのはいいけど、上の学年の課題なんかわかるわけないじゃない。預かってあの女に丸投げよ。
どうせ行くところもないのだから、すぐに戻ってくるに違いない。そうしたら、今度はもっと上手く言いくるめて、ずっとこの家に縛りつけてやるのよ。女主人の仕事なんて面倒なだけだし、私はただクロードと楽しく幸せに暮らせればそれでいいのだから。
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