第14話 食事と宿
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「さあ、遠慮せずどんどん食べてくれ」
少し不安だったがランシェル語を無事、翻訳できた私は、今、ホレスさんから夕飯をおごられている。ちなみに今日の宿もホレスさんがとってくれた。食と宿を節約…と思っていたのに、豪華な食事と宿。嬉しい限りだ。そんな贅沢な状況に、私は心の中で小さな感謝の祈りを捧げた。
「どんどん…って。ふふ、もうこれ以上食べられませんわ」
満腹の腹をさすりながら答えた。ホレスさんが大皿に盛られた料理を再びすすめようとする姿に、思わず微笑んでしまう。
「そ、そうか。いやー、エミリアさんは私の女神だ。きっと、取引もうまくいく。」
彼の言葉に、私は一瞬驚きを隠せなかった。こんなやせ細った私を「女神」と呼ぶなんて、少し大袈裟に感じたけれど、それだけ彼が感謝している証拠なのだろう。心の底からの感謝の念が、言葉となって彼の口から出たのだろうと思うと、私も自然と嬉しさが込み上げてきた。
「この町でお別れなんて、もったいないな。エミリアさん、もし、仕事をする気になったら、ぜひ私の商会に来てくれ。即採用だ。ははは」
ホレスさんは商売のため、各地を回っているらしい。彼は、旅先で得たさまざまな地域や国の話を楽しげに語ってくれた。中でも、侯爵家の領地に関する話題が出たとき、私は耳を澄まして聞き入った。
『あそこはね、最近珍しい野菜を作っていてね。高値で取引されている。あと、色とりどりの花が咲き乱れている名所があってね、観光客も増えている。これは内緒の話だが、領主が、土魔法と探索魔法を使えるらしく、なんと!先月、領地の未開発の場所からアレキサンドライトを発見したんだ。アレキサンドライトかあ、一度は取り扱ってみたい宝石だなー』
彼の話を聞きながら、私は心の中でお兄様のことを思い浮かべた。すごいわ、お兄様。確かにあの手紙に書かれていたように、領地のために尽力してくれているのだと感じた。ホレスさんの話を聞くたびに、誇りと感謝の念が胸に満ちていく。
「エミリアさん、世界は広いよ。私はね、生きているうちにできるだけ広い世界を見たいんだ。ただ、今日のようにいつもの生活の中に素敵な出会いがあると、手の届く場所もなかなか悪くないなって思うんだ。」
彼の言葉が、私の心に深く響いた。私が一歩踏み出せば、私のあの狭い世界にも素敵な出会いがあったのだろうか。
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ふわふわのベッドに横たわり、私はしばらくの間、何度も寝返りを打ちながら思いにふけっていた。しかし、いつの間にか深い眠りに落ちていたようだ。清潔で整った室内、温かいお湯が出るシャワー室、そしてその贅沢さがもたらす安心感。まさに最高だった。
朝、ホレスさんに見送られながら、私は再び乗合馬車に乗り込んだ。夕飯と宿のお世話になっただけでなく、彼はお礼として金貨を3枚も渡してくれた。
これでおいしいものを食べながら、宿の心配もせず旅が続けられる。
あの屋敷を出てから人の温かさに触れることが多い。ああ、ホレスさんじゃないけど、神様ってきっといるのだわ。
ええ、お兄様はきっと変わっていないわ。
ホレスさんも言っていたじゃない。珍しい野菜、色とりどりの花の観光名所、宝石の発見。
手紙がない、誕生日プレゼントがない、会いに来てくれない。…私ったら、自分のことばかり。
これまでの自分を反省しながら、私はお兄様の姿を心に描いた。
きっとお兄様に再会したら、満面の笑みで私を迎え、「リア」と呼んで抱きしめてくれるだろう。
そう信じながら、私は馬車に揺られ続けた。
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