第35話 森の横断③

 森の奥深く、霧が次第に濃くなる中、アッシュたちの進軍は止まることなく続いていた。雑魚兵たちが次々と消えていった不気味な地点に到達したとき、アッシュは新たな雑魚兵を派遣し、状況の確認を試みた。霧が視界を覆い尽くし、森はさらに異様な静寂に包まれていた。木々のざわめきはすでに止み、森全体が息を潜めているかのような緊張感が漂っていた。


 地面がかすかに震え、重低音が足元から響いた。アッシュはすぐさま雑魚兵に警戒を指示し、霧の中を鋭い目で見据えた。すると、霧の中から巨大な影がゆっくりと姿を現した。その姿は、まるで地面から這い出してきたかのような巨大なトカゲのような魔物だった。


 アースドラゴン――地中深くに棲息し、地表に姿を現すことはほとんどない希少な魔物。全身が岩のように硬い鱗で覆われ、その体からは大地の力を感じさせる圧倒的なオーラが放たれていた。雑魚兵たちはその威圧感に一瞬立ち尽くしたが、アッシュの命令を思い出し、すぐに戦闘態勢を整えた。


「こんなところにアースドラゴンが…!」元老院の軍の一人が低い声で呟いた。「まさか、本当に出会うとは…」


「アースドラゴンか。確かに、そう簡単には出会わない魔物だ。」別の兵士が頷きながら言った。「だが、今は戦力を温存しなければならない。戦うのは危険だ。」


 アースドラゴンは低く唸り声を上げ、鋭い牙を見せて雑魚兵たちを威嚇した。その瞬間、ドラゴンの前方の地面が突如として裂け、鋭く尖った岩が地中から勢いよく飛び出してきた。雑魚兵の一体がその岩に貫かれ、その姿は瞬時に消え去った。残ったのは魔物が狙っていた雑魚兵の装備と、その周囲に散らばる土塊だけだった。


「貫かれた雑魚兵は即座に消えていく…厄介だな。」アッシュは小さく息をつき、冷静に状況を分析していた。


 アースドラゴンはその装備に興味を示し、鋭い牙で装備ごと岩を噛み砕いた。金属の砕ける音が森に響き渡り、その恐るべき力を見せつけるようだった。森にその音が消えると、再び静寂が訪れた。


「アースドラゴンは地中に生息する希少な魔物だ。」元老院の兵士が震える声で説明した。「通常は地上には出てこない。魔石は非常に貴重で強力だが…今の状況で戦うのは愚策だ。」


「確かに。」アッシュは彼の言葉に同意しながら答えた。「貴重な魔石を手に入れるために、多大な犠牲を払うわけにはいかない。戦力を削られるのは避けたい。」


「でも、どうするつもりだ?」元老院の兵士の一人が不安げに尋ねた。「アースドラゴンを放置すれば、我々の進軍を妨げるかもしれない…」


「戦闘は避ける。」アッシュは短く、しかし確信を持って命じた。「雑魚兵を使って、アースドラゴンを遠くに誘導する。注意を引きつけ、その間に我々は進軍を再開する。」


「なるほど、確かにその手があるな。」別の元老院の兵士が納得したように頷いた。「戦力を温存しつつ、道を切り開く方法だ。」


 アッシュは雑魚兵たちに新たな命令を下し、アースドラゴンを森の奥深くへと誘導する作戦を実行した。雑魚兵たちは迷うことなく、アースドラゴンに向かって走り出し、遠くへと誘導を試みた。アースドラゴンはその動きに興味を持ち、地を割るような咆哮を上げながら雑魚兵たちを追いかけ始めた。雑魚兵たちはアッシュたちの指示を忠実に守り、アースドラゴンを巧妙に森の奥深くへと誘導していった。


 その間、アッシュは隊を再び進軍させる準備を整えた。アースドラゴンが追ってくる心配がなくなるまで慎重に待機し、カナが不安げな表情でアッシュに近づいた。


「これで、しばらくは大丈夫でしょうか…」カナの声にはまだ緊張が残っていたが、少しの安堵も含まれていた。


「まだ安心はできない。」アッシュは冷静な目で周囲を見渡しながら答えた。「この森には他にも未知の危険が潜んでいるかもしれない。気を抜かず、進軍を続けよう。」


「確かに、油断は禁物だ。」元老院の兵士が慎重に同意した。「アースドラゴン以外にも、この森には何が潜んでいるかわからない。」


「そうだ。ここでは、何が起こるか分からない。」アッシュは鋭い目で森の奥を見据えた。「だが、今は進むしかない。全員、注意を怠るな。」


 アッシュたちは慎重に進軍を再開し、アースドラゴンの脅威から逃れることに成功した。しかし、彼らの心にはまだ、森の奥深くに潜むさらなる危険が待ち受けているという不安が消えないまま残っていた。霧の中、彼らは静かに進み続け、次なる脅威に備えて心を引き締めた。森の中で待ち受ける未知の恐怖を前に、アッシュは次の一手を考えながら、隊の進軍を進めていった。


あとがき

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