第36話 森の横断④

 アッシュ・リード率いる共和国の一団は、森の中央部を抜けるにつれて、周囲の魔物の気配が次第に薄れていくのを感じた。これまでの緊張感が徐々に和らぎ、隊員たちは少しずつ肩の力を抜いていた。しかし、アッシュは慎重な態度を崩さず、先を進む雑魚兵たちに目を光らせていた。


 前方に人影が見えてきたのはそのときだった。重装備を身にまとった一団が近づいてくる。彼らは一目でただの冒険者ではないとわかるプロフェッショナルな雰囲気を漂わせていた。



「誰だ?」一団のリーダー格の男が、険しい表情で問いかけてきた。彼の目はアッシュたちを鋭く見つめ、警戒心を隠していない。


「共和国のアッシュ・リードだ。私たちは街の解放を目指している。」アッシュは冷静に名乗った。その言葉に、ハンターたちは瞬間的に硬直し、不機嫌そうな表情を浮かべた。


「街の解放か…。俺たちはそんなことには関心がない。俺たちは帝国に雇われて、この森で魔石を確保しているだけだ。」リーダーは短く返答し、アッシュを睨みつけるように言葉を続けた。「あんたたちも、自分の仕事に専念するんだな。」


「共闘する道はないか?」アッシュは一歩踏み出し、交渉の余地を探ろうとしたが、ハンターたちはそれを拒絶するかのように顔を背けた。


「俺たちは俺たちのやり方でやる。邪魔はするな。」リーダーは言い放ち、他のハンターたちも同様に冷淡な態度を示した。


 元老院の軍から一人が前に出てきて、やや厳しい口調で言った。「街の解放が成功すれば、ここでの活動も安全になるはずだ。それを理解しているなら、協力するのが賢明だと思うが。」


「元老院の兵士か…。だが、俺たちの雇い主は帝国だ。今さら方向転換はできない。」リーダーは冷ややかに笑い、首を振った。「ここで無駄話をするつもりはない。お前たちも自分の目的を果たすといい。」


 アッシュはそれ以上の交渉を諦め、静かにハンターたちを見送った。ハンターたちは彼らと関わることなく、そのまま森の奥へと姿を消した。



 ハンターたちと別れた後、アッシュたちは再び森を進み続けた。道中、森の静けさに違和感を覚えつつも、慎重に歩を進めていると、次に彼らの前に現れたのは、装備が整っていない一団だった。


 彼らは、明らかに一般市民で、簡素な装備と疲れ切った表情を見せていた。だが、その目には決して折れない強い意志が宿っていた。アッシュは一歩前に出て、彼らに声をかけた。


「君たちは、何をしている?」アッシュが問いかけると、一人の中年男性が前に出てきた。彼の服は汚れ、武器も粗末なものだったが、その目には鋭さがあった。


「俺たちは街の住人だ。何とかして生き延びるために、魔石を集めに来た。」男性はしっかりとした口調で答えた。


「街の状況はどうなっている?」アッシュが尋ねると、男性は一瞬ためらいながらも答えた。


「街は結界に守られている。魔物は近づけないが、それでも安心できる状況じゃない。私たちは、魔石を持ち帰って、街の防御を強化しなければならない。」


 元老院の兵士が口を開き、疑問を投げかけた。「結界はどれほど持つのか?この森の魔物を防ぐ力があるのなら、私たちにも協力してくれないか?」


 男性は首を横に振った。「結界は今は持ちこたえているが、持続するためには魔石が必要だ。私たちはそのために命がけでここに来ている。」


「君たちも共和国の民だ。私たちと共に街の解放を目指さないか?」アッシュはその目を男性の目に合わせ、強く訴えかけた。


 男性は少し考え込み、そして静かに頷いた。「わかった。俺たちも街のために戦うべきだろう。君たちと共に行動させてくれ。」


 アッシュは満足げに頷き、彼らを新たな仲間として迎え入れた。


「街の状況を詳しく聞かせてくれ。」元老院の兵士が問いかけると、男性は少し安堵の表情を浮かべ、答えた。「街の結界はまだ持ちこたえているが、魔石の供給が途絶えれば、持ちこたえることは難しい。街の人々はその恐怖に怯えながらも、生き延びるために必死だ。」


「君たちと協力して、街を守るための準備を進めることができる。共に街を守り抜こう。」アッシュは力強く言い、新たに加わった仲間たちと共に、再び街への進軍を開始した。


 森の暗闇は次第に薄れ、彼らの前に広がる街の光が、彼らの目的地を示していた。彼らはその光を目指して、困難な道を進み続けた。


あとがき

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