第41話 街への侵入⑤

 エリックの心臓は静かに鼓動し、周囲の喧騒がすべて遠のいていく。彼の視界にはただ一つ、遠くに浮かぶ光る玉だけが映っていた。呼吸を整え、指先に感じる弦の感触を確かめる。すべてが、この瞬間に向けて調和していた。


「今だ…」エリックは心の中で呟き、矢を放った。


 その瞬間、空気が切り裂かれ、鋭い音が静まり返った空間を貫いた。エリックの矢は驚くほどの速さで飛び出し、まるで魔法が宿っているかのように光り輝きながら、夜空に一筋の光の軌跡を描いていく。その光は瞬く間に防壁の上にある光る玉へと迫り、そのまま正確に中心を射抜いた。


 エリックの放った矢は、見事に結界を破り、光る玉を貫通する。玉は一瞬だけ眩い光を放ったが、その後すぐに静かに砕け散り、その破片は夜空に散らばる星屑のように消え去っていった。それと同時に、街を覆っていた魔法の結界も崩れ去り、防壁を包んでいた防御の幕は音もなく霧散した。


 エリックはその結果に一瞬驚き、胸が高鳴るのを感じたが、その感情を押し殺し、すぐに次の行動に移ろうとした。だが、その前に周囲の仲間たちが一斉に動き出した。


 アッシュは矢の効果を確認すると、即座に次の指示を下した。「街へ入れ!」彼の声が響き渡ると同時に、影のような気配が彼の周りに渦巻き、無数の雑魚兵が次々と出現した。彼らは無言でアッシュの命令を理解し、帝国兵の注意を引きつけるべく、速やかに街の各所へと散らばっていった。


 帝国兵たちは突然の襲撃に対処しようと慌てふためいた。彼らの数は少なく、雑魚兵の奇襲に完全に動揺し、その行動は混乱に陥っていた。監視を担当していた兵士たちは、どこから襲撃が来たのかさえ把握できず、アッシュたちの本当の狙いを見抜けないまま、時間を無駄に消費していた。


 アッシュはその混乱を冷静に見極め、隣にいる仲間たちに短く指示を与えた。「行くぞ、街の中央を目指せ!」彼らはすぐに反応し、慎重かつ迅速に街の奥深くへと進み始めた。


 街の中は、夜の静けさと襲撃の緊張感が入り混じり、不気味なほどに沈黙していた。アッシュたちはそれぞれの足音を最小限に抑えながら、建物の影を利用して前進していく。彼らが目指すべき場所は、街の中心にそびえる最も高い建物。そこからなら、帝国軍に向けて効果的な魔法攻撃を放つことができ、敵を決定的に打ち破る一撃を与えることが可能だ。


 途中、アッシュたちはいくつかの帝国兵と遭遇したが、彼らはすでに混乱しており、組織的な抵抗を見せることはなかった。アッシュは冷静に雑魚兵を指示し、彼らに襲撃を任せることで、帝国兵を手早く片付けた。その間、仲間たちはひたすらに街の中央を目指し、アッシュが与えた作戦を遂行することだけに集中していた。


 やがて、彼らは街の中心に位置する高い建物の前にたどり着いた。その建物は夜の闇にそびえ立ち、まるで不気味なほどに静まり返っていた。アッシュはその威容を見上げ、背後の仲間たちに一瞬視線を向けた。彼の目には、冷静さの中に覚悟が宿っており、仲間たちもまたその視線を受け取って頷き返した。


 しかし、彼らが次に何をすべきかを考える間もなく、物語はここで一旦の幕引きを迎えた。彼らがこの建物で何を成し遂げるのか、そしてその後に何が待ち受けているのか。それは、次なる展開で明らかにされることだろう。


あとがき

応援、レビュー以外のコメント(修正案、酷評など)はxにいただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る