第2章:終わらない戦い

第44話 出兵命令

 静かな村の朝、村長の家はいつも通りに見えたが、その内部には緊張感が漂っていた。村長のマルコムは、暖炉の前に立ちながら来客を待っていた。その姿には、年齢を重ねた威厳があり、村の重責を担う者の覚悟が感じられた。


 扉がゆっくりと開き、元老院のメンバーであるレオンとエルザが中へ入ってきた。彼らに続いて、軍の指揮官であるフィンも現れる。フィンは精悍な顔立ちを持つ男で、鋭い眼差しが戦士としての経験を物語っていた。彼の後ろには、アッシュ、エリック、カナの三人が続いていた。彼らの表情には、再び戦場に立つことへの覚悟と不安が混じっていた。


 全員が揃ったところで、マルコムは静かに席を促した。元老院のメンバーは無言で頷き、全員がテーブルを囲んで腰を下ろした。室内は静まり返り、焚き火の音だけが微かに響いていた。


 レオンが口を開いた。「我々がここに来たのは、重要な話があるからだ。前回、帝国から奪還した街については、君たちも知っている通りだ。しかし、問題はそれだけではない」


 エルザが続ける。「現在、帝国が新たに三つの街を占領している。これらの街は、いずれも魔石の採取が可能な場所だ。魔石の重要性は言うまでもなく、帝国はそれを狙っている」


 フィンが腕を組み、厳しい表情で言った。「帝国の攻勢は今後さらに強まるだろう。我々元老院の軍も全力で防衛に努めているが、全ての地点を守りきれるわけではない。そのため、君たちに協力を要請したい」


 アッシュたちは黙ってその言葉を聞いていた。彼らはまだ前回の戦いの傷跡が癒えていなかったが、同時に自分たちの力が必要とされていることを理解していた。特にアッシュは、前回の戦いで見た凄惨な光景が頭から離れず、再び戦場に立つことへの不安が募っていた。


 マルコムはゆっくりと頷き、「話を続けてください」と促した。


 フィンは深く息を吸い込み、話を続けた。「君たちに任せたいのは、その三つの街のうちの一つの奪還だ。この街は、帝国の防衛が特に厳重で、元老院の軍だけでは困難が予想される。だが、君たちが加われば成功の可能性が高まる」


 アッシュが静かに問うた。「具体的には、どのような作戦を考えているのですか?」


 フィンは地図を取り出し、テーブルに広げた。そこには、占領された街の位置や周囲の地形が詳細に描かれていた。「我々の軍がこの街の外周を取り囲むように配置し、君たちが内部から侵入して攻撃する。この作戦には、迅速かつ正確な行動が求められる」


 エリックが考え込むように地図を見つめ、カナもその横で目を細めて戦術を練るような表情を浮かべた。


「私たちがまた戦場に出るんですね」とカナが低く呟いた。その声には、戦闘への覚悟と共に、再び目にするであろう悲惨な光景への恐れが滲んでいた。


「その通りだ」とレオンが答えた。「しかし、これは君たちだけでなく、この村全体、そして領土全体を守るための戦いだ。犠牲を伴うことは避けられないが、それでも我々は戦わなければならない」


 アッシュはその言葉を噛み締め、深く息を吐いた。彼の心中には迷いがあったが、それでも彼は仲間たちと共に戦う決意を固めた。「分かりました。我々は協力します」


 マルコムはその言葉に目を細め、静かに頷いた。「感謝します。君たちの勇気に敬意を表します」


 フィンは立ち上がり、真剣な表情でアッシュたちを見つめた。「出発は明朝だ。準備を整えておくように」


 全員が静かに頷き、それぞれの胸に決意を抱いて席を立った。室内には再び静寂が戻り、焚き火の音だけが心地よく響いていた。しかし、その静けさの中には、これから迎えるであろう激戦の前兆が潜んでいるように感じられた。


 アッシュたちは家を出ると、夜の静けさに包まれた村の中を歩き始めた。彼らの足音だけが、冷たい夜風に吹かれて静かに響いていた。明日から始まる新たな戦いに向けて、彼らの心にはそれぞれの思いが渦巻いていたが、その道のりはもう後戻りできないことを知っていた。彼らが再び戦場に立つ日が、刻一刻と近づいていた。


あとがき

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