第45話 道中
村を後にしたアッシュたちは、広がる森を抜け、険しい山を越え、岩場や湿地を進んでいった。すでに十日が経過し、その間に彼らは幾度も魔物との戦闘を繰り返してきた。道中は危険に満ちており、彼らはその都度自らの技と戦術を磨いていた。
フィンの的確な指示の下、アッシュは仲間たちを率いて魔物の群れに挑み、効率的に魔石を採取していった。魔物たちは次々と襲いかかってくるが、アッシュの冷静な指揮とフィンの戦術的な判断が冴え渡り、無駄な動きは一切見られなかった。エリックは巧みな弓捌きで遠距離から敵を狙い撃ち、素早く矢を放つたびに敵は次々と倒れていった。カナは幻影魔法を駆使し、敵の視界を欺きながら仲間たちを支援し、戦局を有利に導いていた。
カナの幻影魔法はさらに洗練され、複雑な詠唱も彼女にとってはもはや日常の一部と化していた。彼女は幻影を操り、敵の注意を引き付けたり、迷わせたりすることで、アッシュたちに戦術的な優位をもたらした。彼女の幻影魔法によって、敵はしばしば錯覚に囚われ、アッシュたちはその隙をついて効果的に攻撃を仕掛けることができた。その巧妙な技術は、戦場において欠かせない存在となっていた。
戦いの合間、アッシュたちは魔石を丁寧に採取し、召喚した雑魚兵たちの装備を点検した。これらの雑魚兵はアッシュの魔力により召喚された存在であり、その戦闘能力はアッシュの成長に伴って向上していた。装備の補充は彼らの生存率を高めるために欠かせない作業であり、アッシュはその管理に一切の妥協を許さなかった。
エリックは仲間たちを手助けしながら、自らの弓を慎重に整えた。彼の矢筒には、戦闘のたびに魔石の力を吸収した特製の矢が増えていった。彼は優れた弓使いとしての誇りを持ちつつ、仲間たちへの信頼を深めていった。
進軍を開始してから六日目の夜、フィンは全員を集め、焚き火を囲んで真剣な表情で指示を出した。「明日の昼過ぎには、目標となる街の近くに到達する。しかし、敵に見つかるわけにはいかない。ここから先は道を外れ、森の中を慎重に進む必要がある。気を緩めず、油断しないように。」
アッシュたちはその言葉を胸に刻み、翌日の行動に備えた。
翌日、彼らは予定通り街の近くに到達したが、道を外れて森の中を進むことにしたため、進軍は一層困難を極めた。森の中は薄暗く、枝や落ち葉が足元を覆い、彼らの歩みを妨げた。カナは幻影魔法を駆使して視界を確保し、敵の気配を感じ取ることに集中していた。彼女の魔力が周囲の自然と調和し、彼らの進路を導くように感じられた。
突然、森の奥から物音が聞こえた。アッシュたちは即座に警戒を強め、身をひそめた。その直後、茂みから数人の男たちが静かに姿を現した。彼らは鍛え抜かれた身体を持ち、鋭い目つきでアッシュたちを見つめていた。服装や装備から、彼らはただの盗賊や通りすがりの旅人ではないことが一目で分かった。
男たちは武器を構えずに、アッシュたちに近づいてきた。リーダーと思われる男が低い声で言った。「待て、我々は敵ではない。」
アッシュたちは瞬時に警戒を強めたが、フィンが手を上げて制止した。フィンは相手の意図を見極めようと、その男をじっと見つめた。
「俺たちは帝国に雇われている」と男は続けた。「ここでの出来事を報告しない代わりに、金を要求する。」
その言葉に、アッシュたちは驚きとともに緊張感を覚えた。彼らは帝国の手先でありながら、戦闘を避けようとする姿勢を見せていた。しかし、金を要求するその行為は、彼らがただの雇われ者に過ぎないことを示していた。
フィンは冷静に相手を見つめ、静かに尋ねた。「いくらだ?」
男はしばらく考え込むようにしてから、静かに答えた。「金貨百枚。それでこの話は終わりだ。」
その要求にフィンは眉をひそめたが、すぐに頷いた。「わかった。それで手を引いてもらえるなら、問題はない。」
男たちは金貨を受け取ると、笑みを浮かべて言った。「取引成立だ。俺たちはもう何も見ていない。これからもご無事で。」
彼らはその言葉とともに姿を消し、森の中の静寂が戻った。フィンは深く息を吐き、冷静に周囲を見渡した。「これ以上の衝突は避けたい。無駄な戦いは、無駄な犠牲を生むだけだ。」
アッシュたちはその言葉に頷き、再び進軍を再開した。街までの距離はもうわずかだ。彼らは目の前に控える戦いに向けて、それぞれの胸に決意を新たにした。
カナは静かに呟いた。「戦いのために、何かを犠牲にしなければならないことがある。だからこそ、私たちはこの力を使うんだ。」
アッシュも静かに頷き、その言葉に同意した。「その通りだ。だが、俺たちはそれ以上に守るべきものがある。そのために戦うんだ。」
彼らの足音が再び森の中に響き、冷たい夜風が彼らの周りを吹き抜けていった。戦場はもうすぐそこだ。彼らは再び立ち向かう覚悟を固め、進み続けた。
あとがき
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